
1917年(大6)阿蘭陀書房刊。
「伊勢物語」は高校時代の古典の教科書あるいは学習参考書などで部分的にしか接していなかった。本書を見つけたおかげで、一応全文を通読することができて良かった。吉井勇が訳したのは原文の叙述部分で、和歌の部分は最小限の訂補にとどめ、やや大きな活字で表記されていた。いにしえの和歌については普段見慣れないこともあって、背景説明はあっても、特に語句の強調助詞など難解なものが多かった。平安時代の人々の生活ぶりは類推するしかないのだが、人間の感情、特に男女の恋愛感情に関しては、世の古今東西を問わぬ思いを共感できる個所も少なくなかった。竹久夢二の挿画も素晴らしい。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1908145/1/4
函絵・挿絵は竹久夢二。

月やあらぬ春やむかしの春ならぬ
わが身ひとつはもとの身にして(四)

時知らぬ山は富士の根いつとてか
かのこ斑に雪の降るらむ(八)

名にし負はばいざ言問はん都鳥
わが思ふ人はありやなしやと(八)

筒井筒井づつに懸けしまろがたけ
生ひにけらしな相見ざる間に(二十二)

千早降る神の忌垣も越えぬべし
大宮人の見まく欲しさに(七十)

さくら花今日こそかくは匂ふとも
あな頼みがた明日の夜のこと(八十九)
※特に最終章(百二十五)は感銘深かった。
彼昔(むかし)、或る男が重い病の床に臥して、今が最期と思はれた時に歌った。
つひに往く道とはかねて聴きしかど
昨日今日とは思はざりしを