
1956年(昭31)5月、雑誌「小説倶楽部」臨時増刊号掲載。
1956年(昭31)東京文芸社刊。
表題作の中篇「振袖剣光録」と短篇6作を含む高木彬光の時代小説。

八代将軍吉宗はその権力を確かなものにするために、御庭番と称する公儀隠密を組織し、全国から情報を集めさせた。尾張徳川家の機密文書「青龍秘帖」を入手した隠密は箱根で追手に殺害されたが、文書はその妻が江戸に持ち帰ったと考えられた。隠密は変装が身上で、その妻も大蛇のお源という名で賭場を渡り歩いている。彼女はある夜、覆面の侍の襲撃を受ける。その窮地を救ったのが若衆姿の竜之丞だった。彼は曲者を斬り、お源を長屋まで送り届ける。不思議なのはお源が仲間の男に死体の始末を頼んだのに、その死体が消えていたという。
竜之丞は流浪の身であり、以来お源の長屋の一角に住みつくことになる。お源は持っているはずの青龍秘帖のことをおくびにも出さないが、絶えず尾張藩の追手や公儀隠密、怪盗日本左衛門、そして町奉行大岡越前の配下などが入り乱れて、抗争を繰り広げる。そして竜之丞の正体とは? 策謀とミステリーが加味された作品で、少々ひねり過ぎの感もあったが面白かった。☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790615/1/197
https://dl.ndl.go.jp/pid/1645299/1/3
雑誌の挿絵は木俣清史。
《俗に黄昏時のことを一名逢魔ケ時というけれども、やはり魔性の者がこの世にあらわれ、百鬼夜行の図をくりひろげるのは、家の棟木も三寸下るといわれる丑満時だろう。だから、沈丁華の花の香がただよう春の烏羽玉の闇から、にじみ出るようにあらわれた全身黒装束の一人の男が、板塀に蝙蝠かと思われるようにはりついて、じっと近づいて来る提灯の火を見つめていたのも、その一つの序曲かも知れなかった。》(振袖剣光録、書き出し)