
1954年(昭29)8月~11月、雑誌「読切俱楽部」連載。
1957年(昭32)東方社刊。
戦後期のメロドラマのうちで最も有名な「君の名は」を書いた菊田一夫は、他にも非常に沢山の作品を書いた売れっ子作家だった。この「愛情の星」もその一つなのだが、放送作家として起伏の富んだ、あるいは波乱万丈のプロットを展開させるパーツを生み出していく力量と才能は十分にありながら、作品そのものの構成に関しては、まるで砂上の楼閣のようにちょっとした地震や台風でバラバラに崩壊してしまうような骨組の弱さが見え見えだった。

神戸の富豪令嬢由起枝は、実は妾の子で、生母は幼い頃に家を離れ、東京に去ったという。成長した彼女はどうしても母に会いたくて、ある時家を出て、東京でデパートの店員をしながら母を探そうとした。しかし他から見れば、身なりや習慣が華美なのは隠せず、周囲の反感を買い、店の万引き犯と疑われ、失意のまま、ある夜隅田川に投身自殺をはかる。たまたま近くを歩いていた白井譲二は上着を脱いで、彼女を救助するが、同時刻に通報によって川上で他殺体が発見され、その死体が握っていたのが譲二の上着のボタンだった。上着はいつのまにかなくなっていた。譲二は殺人容疑で警察に連行される。(ここの下りに関しても偶然と策略とが出来過ぎなほど絡みあっており、奇異の念に囚われてしまう)

こうした話の進め方がその後も頻発すると、「これは不条理劇の裏返しなのではないか」とさえ思われてくる。由起枝はその後も欺瞞に満ちた結婚生活を送り、精神に異常を来たしながらも、最後は命の恩人に二度助けられ、人生にようやく光明を見出す。冷静な目ではハチャメチャで、しかしながら印象的な作品だった。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1723016/1/29
https://dl.ndl.go.jp/pid/1356452/1/3
雑誌連載時の挿絵は伊勢田邦彦。