明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『宇都宮釣天井』 神田伯龍

宇都宮釣天井:神田伯龍

1896年(明29)駸々堂刊。

 講談では有名な三代将軍家光に対するクーデター未遂事件である。原因となったのが、二代秀忠の嫡子三人のうち、長男が早世し、次男竹千代と三男国松のどちらに将軍位が継がされるかにあり、家臣の中に派閥ができた。特に秀忠は国松の方を溺愛したためでもあったが、結果的には順当に竹千代が家光となり、国松は忠長と称して駿河大納言を拝領した。しかし忠長には野心があり、父秀忠に国家東西二分割統治案を申し入れて逆鱗に触れ、長期にわたる閉門となった。

 

 幼少時より忠長派であった宇都宮城主本田正純は、家光を亡き者にしようと、日光社参の機会に城内に宿泊したときに、釣天井を落とす計略をめぐらし、家老の河村負に命じて御殿の改築を急がせた。工事を請け負った36名の大工は期間中禁足となり、秘密を口外するのを防いだが、そのうちの一人だけ一晩脱け出し、愛する庄屋の娘に会いに行った。工事が完了して、祝い酒がふるまわれた翌朝、金蔵破りの罪を着せられ、全員が斬殺されるに至った。

 

宇都宮釣天井:神田伯龍、田口年信・画

 大詰めは、いかに事が露見し、家光が無事に江戸に帰城できたか、宇都宮一派への御沙汰は、となるのだが、伯龍の語りは整然とよどみなく進行していた。歴史的な事件としては、天一坊事件などよりは語られることが少ないものの、徳川時代の史話としては興味深かった。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/889554/1/1

口絵は田口年信。



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