
1896年(明29)駸々堂刊、探偵小説第13集。
明治中期に盛んに刊行された駸々堂の探偵小説シリーズの一つだが、この作品に関しては、中身は探偵小説ではなく、犯罪実録もしくは事件記録、今でいえばノンフィクションに近いものだった。明治29年8月に、讃岐国のある村の代々庄屋を勤めた素封家の福崎一族を、日頃怨嗟の念を抱いていた分家の兄弟が襲撃して惨殺に及び、屋敷に放火した後、墓地に赴いて自決したという事件である。出版されたのが事件の3カ月後という生々しさであり、この福崎一族の本家と数軒の分家の感情的な対立を過去の代に遡って、その親族間の些事を詳細に記述している。大家族時代の親戚づきあいほど煩雑なものはなかったと思われ、権限の集中する本家と冷遇をかこつ分家とのわだかまりは消えることはなかったのだろう。読んでいてあまり気持のいいものではなく、後味も悪かった。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/886604
表紙絵作者は未詳。