(こいしきあだ)1911年(明44)樋口隆文館刊。作者の小川霞堤(かてい)については生没年や略歴のほとんどが不明。残された作品の年代から見ると大正期の3カ年(1916~18) しかない。名前の霞堤については、共作者の黒法師が多作家の渡辺霞亭(1864-1926)の変名であり、霞の字をもらって出世作を売り出すにあたって霞亭(黒法師)の補筆を受けた弟子だったのかもと推定できる。しかし一本立ちして数年で早逝したとも考えられる。別の推理では、小川霞堤も渡辺霞亭の変名の一つで、一時期のみ使ったのかも知れない。文体の平易さ、芝居の場面転換のような間の取り方、会話の細かさ、などの筆法はよく似ている。美人ではあるが田舎者で無教養なヒロイン初江が母親の病死を境に恋人から見放され、親戚からも厄介者扱いされ、自殺寸前に青年将校から救われて、なおも紆余曲折の末に・・・プーシキンの「オネーギン」の結末に似ている。一見月並みな展開に引きずり込んだ後に一気に決着へと導く霞堤(あるいは霞亭)の手腕はなかなかだと思う。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は長谷川小信。残念ながらカラー画像は見つからない。
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*作家、小川霞堤に言及する記事
古本夜話323 丸山ゼイロク堂と小川霞堤『蛙の目玉』(2013.08.21)
https://odamitsuo.hatenablog.com/entry/20130821/1377010887