明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『両国の秋:綺堂読物集』 岡本綺堂

1939年(昭14)春陽堂刊。タイトルの「両国の秋」は綺堂の作品中で情話集に分類される江戸期の男女の情愛のもつれを描いた中篇になる。春陽堂のこの一巻には、他に半七物の最後の四篇と共に半七の外典とされる『白蝶怪』の中篇が併収されていた。 『両国の秋…

『三十九号室の女』 森下雨村

1935年(昭10)朝日新聞社刊。週刊朝日文庫第1輯。昭和初期のレトロ感に満ちた東京の街並みの描写に心温かさを感じる。東京駅で呼び出しを受けた主人公が電話口に出ると先方で女性の叫び声が聞こえ、電話が切れる。発信元は有名ホテルだった。電話が貴重で…

『カートライト事件』 フレッチャー作、森下雨村訳

1928年(昭3)改造社刊。世界大衆文学全集第8巻。森下雨村訳。いわゆる円本時代に各社から出された全集本の一つ。フレッチャー (J.S.Fletcher, 1863-1935) はイギリスの小説家。広範囲なジャンルでの作家活動で知られたが、推理小説がメインであったと思われ…

『白石噺・孝女の仇討』 青龍斎貞峰

1920年(大9)大川屋書店刊。八千代文庫79。江戸時代、仙台藩白石で実際にあった仇討ち話。孝子堂という史跡もある。私事ながら幼少期を過ごしたこの小都市で、見聞きしていた話の詳細をこの年齢になって初めて読んで感動した。農民の父親を武士に斬殺された…

『殺害事件』 丸亭素人・訳

1990年(明23)今古堂刊。原作はエミール・ガボリオ(Emile Gaboriau, 1832-1873) の『オルシヴァルの犯罪』(Le Crime d’Orcival, 1866) というフランスの新聞連載小説である。原作では名探偵のルコックが活躍するが、多湖廉平(たこれんぺい)に置き換えられ…

『大岡政談お富与三郎』 邑井一

1896年(明29)天野高之助刊。同じ版型で1902年(明35)に日本館からも出ている。江戸時代から歌舞伎や絵草紙で何度も取り上げられた話で、明治の講談筆記本でもこの邑井一(むらい・はじめ)の他、松林伯円、玉田玉秀斎、春錦亭柳楼らが競って口演した類書…

『鏡と剣』 江見水蔭

1913年(大2)嵩山堂刊。前後2巻。江見水蔭の作品はこれまで活劇風の軽いノリのものを読んでいたが、これは少々異なった。母を亡くして後、気性の合わない継母との生活に苦しみ、家を出た10代の少年は銚子の漁村に住む乳母の許を頼るが、大人たちの貧しく醜…

『有憂華』 菊池寛

(うゆうげ)1932年(昭7)春陽堂刊、日本小説文庫1。タイトルの意味は「憂いのある花」のようなことで、物語の中心となる三人の女性のそれぞれの愛の不幸をかこつ姿を描く。菊池寛は頭脳明晰な人だったと言うが、感情の起伏や心理の変化を登場人物ごとに巧…