明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『つきぬ涙』 篠原嶺葉

1917年(大6)春江堂刊。前後2巻。 真情と義理との板挟みで人生を絶望するまでに追い込まれる女性の悲劇小説。相思相愛の仲の男女が親同士の仲違いゆえに結ばれず、男はドイツ留学へと旅立つ。その直後、女は実家の破産の危機に直面し、泣く泣く金銭ずくの…

『隠れた手』 甲賀三郎

1957年(昭32)東方社刊。甲賀三郎(1893-1945) の中篇集。表題作『隠れた手』と『血染の紙入』の二作を読んだ。前者は一流ホテルの客室に闖入した青年が見聞きした殺人事件のトリックの謎解きだが、時間軸の中に偶然が組み込まれる「あり得なさ」を感じた。…

『お嬢おきぬ首塚』 菊水舎 薫

1897年(明30)9月~1898年(明31)2月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 講談速記本の形になっているが、演者の菊水舎薫(きくすいしゃ・かおる)は元々主筆の高橋翠葉(恋菊園)の門人だったのが、大阪に行って講談師の資格を取り、東京に戻ってきた…

『娘変相図:銭形平次捕物控』 野村胡堂

1950年(昭25)矢貴書店刊。新大衆小説全集第10巻所収。銭形平次物は長中短合わせて383篇にのぼるそうだが、まともに読んだのは今回が初めてになる。胡堂の文体は「でした、ました」という丁寧な語尾に特徴がある。傲慢な読者でも語り手がへりくだった姿…

『悪華族:探偵実話』 荻廼家主人

1897年(明30)8月~1898年(明31)1月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 作者の荻廼家(おぎのや)主人についてはこの作品以外には生没年を含め、全く不明。この版元所属の記者作家の筆名の一つと考えられる。伯爵家の財産の横領を企む分家の弟と結託…

『江戸ざくら』 渡辺黙禅

1919年(大8)大川屋書店刊。みやこ文庫第16篇~第17篇『後の江戸ざくら』全2巻。大政奉還から明治維新にかけての近代日本における大変革期を生きる人々の生き様を描いている。武家社会の崩壊は俸禄という経済基盤を失うことで多数の士族や雇人たちが路頭に…

『新編坊ちゃん』 尾崎士郎

1938年(昭13)雑誌「日の出」連載。 1939年(昭14)新潮社刊。 1954年(昭29)山田書店刊。 1956年(昭31)20世記社刊。 これは名作『坊ちゃん』の後日談の形を取っている。主人公「坊ちゃん」は失職し、豆腐屋の2階に下宿していたが、生活に困窮している…

『花の肖像』 藤井重夫

1960年2月~12月 雑誌『読切倶楽部』連載。 1961年(昭36)東京文芸社刊。 藤井重夫(1916-1979)は復員後、新聞記者を経て作家活動に入った。世代的には戦中派になる。一度芥川賞候補となる。この作品は戦後期の服装学院に通う若い女性三人組を中心とした青…

『神秘の扉』 高木彬光

1955年(昭30)東京文芸社刊、タイトルは『復讐鬼』 1960年(昭35)浪速書房刊、『神秘の扉』 神奈川県の海沿いの田舎町に建つ広荘な洋風建築の松楓閣に暮らす富豪の朝比奈家に次々に起きる失踪事件。古文書の整理に雇われた秘書、群司の眼を通して丁寧に語…

『烈女富士子』 松林右圓

1897年(明30)3月~8月 雑誌「人情世界」連載。松林右圓(しょうりん・うえん、1854-1919)は泥棒伯圓と称された二代目松林伯圓の弟子で、1901年に伯圓を襲名して三代目となった。この講演速記物の連載時はその直前の時期にあたる。右圓の速記本は極めて少…

『満月城秘聞』 山岡荘八

(まんげつじょうひもん)1955年(昭30)偕成社刊。山岡荘八は「徳川家康」を始めとする歴史小説の大家だが、その他の作品、特に少年少女向けの歴史物も少なくない。これも青少年向けの偕成社刊行による単行本の一つで、10代の少年少女を主人公とする時代…

『血染の片腕:探偵講談』 山崎琴書

1901年(明34)博多成象堂刊。明治30年前後の第一次探偵小説ブームの頃の講談速記本。これも実録をベースに講談にしたものと思われる。山崎琴書(きんしょ, 1847-1925)は明治大正期の講談師だが、積極的に探偵講談に取り組み、速記本の出版も多く、ミステリ…

『疑問の三』 橋本五郎

1932年(昭7)新潮社刊。新作探偵小説全集第5巻。昭和初期の探偵小説作家10人の競作全集の一つ。作者の橋本五郎(1903-1948) もその一人だったが、長篇作品はこれ以外に見当たらない。(同姓同名の戦後生まれのジャーナリストとは別人。) 神戸の公園のベン…

『善悪二箇玉:西国奇談』 邑井貞吉

(うらおもてふたつだま・すぺいんきだん) 1896年(明29)11月~1897年(明30)6月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。 邑井貞吉(むらい・ていきち, 1862-1902)は講談師の名跡を父邑井一から継承し3代目として活躍していた。円朝や涙香による西欧読…