明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『ある文藝編集者の一生』 大村彦次郎

2002年9月、筑摩書房刊。昭和初期から戦中を経て戦後に至るまで文芸雑誌の編集者だった楢崎勤の生涯を語るつもりで付けたタイトルだと思われるが、内容は雑誌出版業の側面から見た昭和前半の文壇史そのままだった。昭和初期にはプロレタリア文学思潮の台頭が…

『誰が罪』 篠原嶺葉

1915年(大4)湯浅春江堂刊。タイトルとしては当時評判を呼んでいた菊池幽芳の『己が罪』にあやかって付けられたと思われる。他にも『新己が罪』(多数)とか『人の罪』(小栗風葉)などもあった。 描かれる三つの家族のそれぞれが高利貸(あいすと呼ばれた…

『宙に浮く首』 大下宇陀児

1948年(昭23)自由出版刊。表題作のほか、中篇の『火星美人』と3つの短篇を収める。『宙に浮く首』は信州の田舎の村の銭湯での殺人事件から端を発する。表紙に「スリラー小説集」と銘打って出版された通り、犯行の異常さや残虐さが強い印象を与えるが、ほ…

『魔女を探せ』 九鬼紫郎

(くきしろう)1959年(昭34)川津書店刊。九鬼紫郎は戦後1950年代を中心に推理小説・時代小説の分野で旺盛な創作活動をした。タイトルの「魔女」の言葉は意味が重過ぎる。「消えた女を探せ」くらいの軽さが適当だった。語り口に特徴がある。彼の言い方をマ…

『匕首芸妓』 渡辺黙禅

(あいくちげいしゃ)1911年(明44)樋口隆文館刊。前後2巻。前半は華族令嬢一行4名の旅行客と見せかけた詐欺窃盗の一味の鮮やかな犯行と逃避行を塩原・那須の風光明媚な景勝描写とともに描いている。しかし後半は秩父困民党事件での実在した人物たち(田…

『角兵衛獅子』 大佛次郎

1967年(昭42)講談社刊。大佛次郎少年少女のための作品集1所収。幕末の京都で謎の勤皇派の志士として活躍する「鞍馬天狗」シリーズの一冊。最初の出版は昭和2年、少年倶楽部掲載後、渾大防書房から刊行された。少年向けとして書かれたものだが、知名度が…

『女群行進』 浅原六朗

1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書10。表題作の他、短篇13篇所収。作者は大正から昭和初期にかけての新興芸術派の一人としてモダニスム(=都会における風俗習慣や生活様式の現代化)風景を斬新な感性で描いている。当時の唯物論思考の流行によるものか…

『史蹟甚九郎稲荷』 中村兵衛

1914年(大3)樋口隆文館刊。前後終全3篇。表題は神社の縁起由来記のように思われるが、中身は江戸時代初期の史伝上の人物、佐久間甚九郎の半生記である。作者中村兵衛は神戸又新日報の文芸部記者である傍ら、「書き講談」の口調で読みやすい多くの小説を書…