明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『生首御殿』 山田旭南

1910年(明43)小宮万次郎刊。おどろおどろしいタイトルから想像すれば怪談話だろうと思われたが、読み始めて江戸の剣術物だとわかった。雪の夜に軒先で行き倒れで死んだ巡礼女が抱いていた赤子を老夫婦が引き取って育てる。大きくなるにつれ、教えもしない…

『恋の魔風』 秋葉生

(こいのまかぜ)1913年(大2)日吉堂刊。作者の秋葉生は当時のある作家の別号ではないかと思われるが、誰なのかは突き止められずにいる。極悪非道な高利貸の親の遺した娘が清楚な美人であることはよくある悲劇小説の一パターン。実母も早くに亡くしており、…

『恋の怨』 武田仰天子

(こいのうらみ)1917年(大6)樋口隆文館刊。武田仰天子(ぎょうてんし)は明治から大正にかけての新聞小説家として人気があった。版元の広告には《武田仰天子君の作には、此の人独特の一種の妙味が有りますので、それで多数者に愛好せられるのでありますが…

『二人探偵吃驚箱』 多田省軒

(ににんたんてい・びっくりばこ)1895年(明28)銀花堂刊。多田省軒は生没年不明だが、明治中期の人気作家の一人で、黎明期の探偵小説を多く書いた。地の文は漢文調だが、会話部分は口語になって、慣れれば簡潔で読みやすい。夜中に隅田川に流された木箱の…

『真景累ヶ淵』 三遊亭円朝

(しんけい・かさねがふち)1888年(明21)井上勝五郎刊。三遊亭円朝の代表作の一つ。円朝は明治の早い時期から口演速記本を出しており、古風な漢文調から現代的な言文一致体に切り替わるお手本となった。古くから「怪談累ヶ淵」の話はあったのだが、円朝は…

『清水定吉:探偵実話』 無名氏(高谷為之)

1893年(明26)金松堂刊。清水定吉は幕末から明治前期にかけて実在した凶悪なピストル強盗殺人犯だった。五十歳で逮捕されるまで捜査の網を巧みに潜り抜け、大胆な犯行を繰り返した。警察内部に取り入って情報を得るほか、遊興にふけることをせず、単独犯行…

『流の白滝:毒殺事件』 橘屋円喬

(ながれのしらたき)1893年(明26)日吉堂刊。橘屋円喬(たちばなや・えんきょう)は明治の落語家で、三遊亭円朝の弟子にあたる。語り口の名人ぶりは円朝に比肩するほどだったというが、速記本としてはこの一作しかデジタル・コレクションには見当たらない…

『女優奈々子の審判』 小林宗吉

1939年(昭14)紫文閣刊。小林宗吉(そうきち)は本来劇作家だったが、ほとんど唯一のミステリー短編集を読むことができた。表題作「女優奈々子の審判」は深夜の一軒家で起きた殺人事件で犯人に問われた奈々子の裁判をめぐる攻防。他の2作(「黒表の処女」…

『怪談山王之古猫』 松林伯知

1902年(明35)三新堂刊。泥棒伯圓の弟子の一人、松林伯知(しょうりん・はくち)の講談速記本。山王とは現在の都心にある山王日枝神社で、江戸時代は氏神として祀られていた。付近に越後村上藩の内藤氏の屋敷があった。ある時この地で怪猫に惨殺される事件…

『鬼が森』 堀内望天・訳

1911年(明44)日曜世界社刊。タイトルと草履と和服の男の子の表紙絵から見て、日本の民話か何かだろうと思って読みだしたら、西洋の宗教訓話だった。作者はメアリー・シャーウッド(Mary Sherwood, 1775-1851) 19世紀英国の児童文学作家だった。年代的には…

『憐なる母と娘』 橋本埋木庵

1916年(大5)樋口隆文館刊。前後2巻。版元の広告文によると、日清戦争で戦死した軍人の遺された妻子の悲劇的実話に基づいているという。その美貌が仇となって、横恋慕された妻は義弟夫婦の姦策により金満家の男に凌辱される。明治の頃の小説には性愛に関す…

『黒装束:大正奇談』 大原天眠

1913年(大2)春江堂刊。文字通り「竜頭蛇尾」の作品だった。作者大原天眠の名前はこれ一作にしか残っていない。冒頭の東京の奥多摩の山中を迷った若い狩猟家と鄙には稀な謎の美女との出会いなどは伝奇的な香気があった。女は潜伏中の強盗団の一味だった。明…