明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

劇作家系

『タケノコ夫人行状記』 宇井無愁

タケノコ夫人行状記:宇井無愁 1955年(昭30)和同出版社刊。 宇井無愁(うい・むしゅう、1909~1992)は戦後昭和期の大阪の劇作家および小説家。筆名がフランス語の「ウィ、ムッシュー」(Oui, Monsieur.=はい、旦那様)から来ているのは誰でもわかる。主に…

『火の玉小僧』 伊原青々園

火の玉小僧:伊原青々園 1915年(大4)大川屋書店刊。 明治31年から37年まで全国各地を荒し回った連続放火強盗犯、火の玉小僧こと西條浅次郎の生き様を描いた。明治大正の頃には個人情報は保護されておらず、事件の被害者名、所在地なども詳細に新聞で報じら…

『夜の門』 川口松太郎

夜の門:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 ヒロインの章子はエミー野口という芸名で上海のキャバレーの楽団でヴァイオリン奏者兼歌手として働いていた。終戦となって、在留していた日本人はすべて喪失感に囚われ、虚無的に生きるしかなかった。男…

『悪魔を買った令嬢』 川口松太郎

悪魔を買った令嬢:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 1949年(昭24)1月~12月 雑誌「スタイル」連載。 川口松太郎の現代小説の一作。彼は通俗小説の大家と呼ばれたが、小説というものが「何かを物語るもの」という本質を有するかぎり、快筆をふる…

『青春売場日記』 獅子文六

青春売場日記:獅子文六 1937年(昭12)春陽堂、新作ユーモア全集 第10巻所収 獅子文六(1893~1969)の中篇「青春売場日記」を中心とするユーモア小説の中短編集。昭和初期の東京でデパートの女店員(ヂョテさん)の採用試験に応募した二人の女性がふとした…

『白猫別荘』 北村小松

白猫別荘:北村小松 1948年(昭23)新太陽社九州支社刊。 怪奇小説集と銘打った短編集全9篇を収める。終戦直後の刊行で版組や用紙が粗悪のため、印字も不鮮明で読みにくい。怪奇趣味というよりも、人間心理の奥底にある不可解なものを完全には否定も肯定も…

『花ふたたび』 阿木翁助

花ふたたび:阿木翁助 1956年(昭31)桃源社刊。 阿木翁助(1912~2002) は戦後昭和期のラジオ・テレビの脚本家として知られた。あとがきによると、この作品は連続ラジオ・ドラマとして全国21局で昭和30年6月から約1年半、433回にわたって放送され…

『生首正太郎:探偵実話』 あをば(伊原青々園)

生首正太郎:伊原青々園 1900年(明33)金槙堂刊。前中後全3巻。時事新報連載136回。 明治から昭和初期にかけて作家および劇評家として活躍した伊原青々園(1870~1941)(本名:敏郎)は20代の頃「あをば」という筆名で新聞小説を書いていた。これは「あを…

『愛と罪』 中野実

1949年(昭24)8月~1950年(昭25)12月 雑誌「婦人生活」連載。 1951年 東方社刊。 終戦直後の東京の、焼跡が残り、闇市がはびこる中での人々の生活。主人公の舞台装置家岩村は身寄りのない若い女性の来訪を受け、モデルでも下女でも使ってほしいとせがまれ…

『松五郎捕物帳』 栗島狭衣

松五郎捕物帳 1935年(昭10)松光書院刊。作者の栗島狭衣(くりしま・さごろも)(1876~1945) は劇作家の岡本綺堂とほぼ同年代だったが、20代は朝日新聞の記者であるとともに文士劇の主要メンバーとして活動した。30代からは一座を組んで俳優として活動し、…

『両国の秋:綺堂読物集』 岡本綺堂

1939年(昭14)春陽堂刊。タイトルの「両国の秋」は綺堂の作品中で情話集に分類される江戸期の男女の情愛のもつれを描いた中篇になる。春陽堂のこの一巻には、他に半七物の最後の四篇と共に半七の外典とされる『白蝶怪』の中篇が併収されていた。 『両国の秋…

『近代異妖篇』 岡本綺堂

1926年(大15)春陽堂刊、綺堂読物集3、全14篇。「青蛙堂鬼談」の続編と明記している。もしその怪奇談の会がそのまま続いたと考えれば徹夜で語りあったということになるだろう。この作品集は中の一作品「影を踏まれた女」のタイトルをつけて出版されたこと…

『青蛙堂鬼談』 岡本綺堂

1926年(大15)春陽堂刊、綺堂読物集2、全12篇。 1939年(昭14)春陽堂刊、夕涼み江戸噺。 三月三日の雪降る夕べに青蛙堂(せいあどう)の主人から呼び出しを受けたので行ってみると十数人の客が集まった。食事の後に主人から今日の会合の主旨は怪奇な話を…

『女優奈々子の審判』 小林宗吉

1939年(昭14)紫文閣刊。小林宗吉(そうきち)は本来劇作家だったが、ほとんど唯一のミステリー短編集を読むことができた。表題作「女優奈々子の審判」は深夜の一軒家で起きた殺人事件で犯人に問われた奈々子の裁判をめぐる攻防。他の2作(「黒表の処女」…

『伯爵夫人:千葉情話』 青木緑園

1917年(大6)文芸社刊。作者の青木緑園は脚本家出身だが、明治末期から大正にかけて、悲劇小説という恋愛物の通俗小説を多く書いた。前半の舞台は伯爵家が別邸を構える赤羽岩淵付近。当時はまだ小作農たちが貧しい暮らしを送る田舎だった。別邸で気ままに暮…

『恋しき仇』 小川霞堤・黒法師(渡辺霞亭)共作

(こいしきあだ)1911年(明44)樋口隆文館刊。作者の小川霞堤(かてい)については生没年や略歴のほとんどが不明。残された作品の年代から見ると大正期の3カ年(1916~18) しかない。名前の霞堤については、共作者の黒法師が多作家の渡辺霞亭(1864-1926)の…

『うらみの片袖:悲劇小説』 青木緑園

1918年(大7)中村日吉堂刊。作者、青木緑園に関しても生没年や略歴が不詳のままになっている。当時人気があった活動写真(映画)のノベライズ本も数冊出していて、脚本部主任という肩書もあったので脚本家出身とも言えそうだ。特に中村日吉堂のほぼ専属作家…

『人の怨』 行友李風

(ひとのうらみ)1915年(大4)樋口隆文館刊。前後終篇全3巻。作者(ゆきとも・りふう)は劇作家としても知られたが、この作品は「書き講談」のスタイルで語り口はなめらか、テンポも快い。江戸歌舞伎の花形、初代および二代目市川団十郎の芸道の事績と生き…

『悪人手形帳』 松居松葉

1919年(大8)玄文社刊。一言で言えば「仙台の半七捕物帳」。作者の松居松葉(まつい・しょうよう)は本来劇作家だが、洋行して英仏独の語学にも長け、翻訳にも取り組み、小説も書いた。ほぼ同年代の岡本綺堂が同じ劇作家ながら書いた「半七」の成功に刺激を…