1891年(明24)都新聞社刊。黒岩涙香の翻案物の一つ。原作はボアゴベ(Fortuné du Boisgobey) の新聞小説「真っ二つのジャン」(Jean coup-en-deux)。登場人物は日本人名に置き換えているが、パリが舞台なのはそのままである。殺人現場にいた男は警察に捕えられたものの、素性を明らかにせず、名前を「チョン切れ真っ二つ」(クパンドゥ)としか言おうとしない。登場人物が多いのに巧みに書き分けているのは原作者ボアゴベの力量だろう。話の筋の進行によって主人公役が転々として一風変わっていて面白い。従って冒頭部分のヒロインが後半では脇役に引っ込んでしまう。また善人役がオール・ハッピーエンドではない点も興味深い。涙香の筆の勢いは結末まで読み手を惹きつける。原書(仏語)はGoogle booksでも読むことができる。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。木版挿絵は歌川国峰。