明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-01-01から1年間の記事一覧

『詩と暗号』 木々高太郎

詩と暗号:木々高太郎、東郷青児 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の雑誌「モダン日本」に連載されたという連続探偵小説と銘打った8篇からなる。何らかの理由から医師としてではなく、理科系の教師として信州と思われる田舎町の高等女学校の教師として…

『女学生』 藤沢桓夫

女学生:藤沢桓夫(たけお) 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の大阪の寄宿舎のあるミッションスクールが舞台となっている。夜の庭園を散歩していたヒロインの目の前に青年が塀を乗り越えて入って来た。アルセーヌ・ルパンまがいだと思って黙って見てい…

『運命の車』 山田風太郎

運命の車:山田風太郎 1959年(昭34)桃源社刊。 明治時代の歴史的事件の中に、訪日中のロシア皇太子が警察官に刀で切りつけられるという大津事件があった。その犯人を真っ先に取り押さえたのは一行を乗せていた人力車の車夫の二人だった。事件後、彼らは日…

『二人毒婦』 江見水蔭

二人毒婦:江見水蔭 1926年(大15)樋口隆文館刊。前後全2巻。 江見水蔭の小説には、交通が不便だった明治・大正期の観光地、保養地、遊興地の様子を生き生きと描いている個所が多い。この作品では年始を避寒の地で迎える大洗海岸やそこの旅館の様子など。…

『体温計殺人事件』 甲賀三郎

体温計殺人事件:甲賀三郎 1935年(昭10)黒白書房刊。 1950年(昭25)12月、雑誌「富士」に「体温計殺人事件」再掲載。 中篇の表題作「体温計殺人事件」の他、「黒木京子殺害事件」、「百万長者殺害事件」の2篇を読んだ。いずれも昭和初期のもの。「体温計…

『血闘』 三上於菟吉

血闘:三上於菟吉 1931年(昭6)新潮社、長編三人全集 第18巻 所収。 時代物から現代小説まで広範囲なジャンルで健筆をふるった三上於菟吉が書いた初の探偵小説というふれ込み。大正12年(1923)9月1日に発生した関東大震災のときに事件が起きる。震災当日の…

『稲妻左近捕物帖』 九鬼紫郎(九鬼澹)

稲妻左近捕物帖:九鬼紫郎 1952年(昭27)同光社出版刊。 1950年(昭25)4月および12月、雑誌「富士」に2篇掲載。 探偵雑誌「ぷろふいる」の編集長を長年務めた九鬼紫郎が九鬼澹(たん)の名義で発表した南町奉行所同心の稲妻左近の活躍する捕物帖10篇を…

『彼女の太陽』 三上於菟吉

彼女の太陽:三上於菟吉 1927年(昭2)7月~1928年(昭3)5月、雑誌「女性」連載 1931年(昭6)新潮社、長編三人全集 第18巻 所収 昭和初期にモダニズムの先進的な旗振り役を果たしたプラトン社発行の雑誌「女性」に連載された注目作。若くして病気で夫を亡…

『水晶の座』 牧逸馬

水晶の座:牧逸馬 1927年(昭2)7月~12月 雑誌「女性」連載。 1933年(昭8)非凡閣、新選大衆小説全集 第3巻 牧逸馬集 所収。 牧逸馬(1900~1935)は林不忘や谷譲次の筆名でもそのジャンル別に分けて作品を書いた。タイトルの「水晶の座」とは、豪州の砂…

『恐ろしき生涯』 フェリックス・ヴァロットン、税所篤二・訳

恐ろしき生涯:ヴァロットン Vallotton 1927年(昭2)7月、9月、12月 雑誌「女性」に掲載。 作者のフェリックス・ヴァロットン (Félix Vallotton, 1865~1925) は後期印象派の影響を受けながら、ナビ派に参加し、画家、木版画家、美術評論家として活躍した。…

『林中之罪』 菊亭笑庸・訳

林中之罪:菊亭笑庸 1894年(明27)今古堂、探偵文庫 第九篇~第十篇 前後2巻。 菊亭笑庸(きくてい・しょうよう、生没年とも不明)は黒岩涙香に追随するように海外の探偵小説の訳述に活躍した。他の多くの翻案作家たちと同様に彼らの存在はそれぞれの版元…

『神木の空洞』 甲賀三郎

神木の空洞:甲賀三郎、山名文夫・画 1928年(昭3)1月~5月、雑誌「女性」連載(中断) 1930年(昭5)先進社、大衆文庫第6巻所収。 「神木の空洞」(しんぼくのうつろ)は現在は古書の稀覯本もしくは国会図書館デジタル・コレクションでしか読むことができ…

『伯爵邸の奇怪なる事件』 大久保北秀

伯爵邸の奇怪なる事件:大久保北秀 1936年(昭11)大京堂書店刊。 実在した警視庁の名探偵、正力聰之助(そうのすけ)の活躍を記述する10篇。筆者の大久保北秀(ほくしゅう)も警察関係者だった模様。聰之助の口述を北秀が書きとめたものだが、ほとんど実…

『唐人お吉』 井上友一郎

唐人お吉:井上友一郎 1949年(昭24)11月~1950年(昭25)雑誌「改造文藝」連載。 1952年(昭27)講談社刊。講談社評判小説全集 第10巻所収。 唐人お吉:井上友一郎2 幕末の動乱期に、下田に開設された米国総領事ハリスのもとに妾として通った唐人お吉の…

『風雲将棋谷』 角田喜久雄

風雲将棋谷:角田喜久雄 1939年(昭14)大日本雄弁会講談社刊。 1950年(昭25)矢貴書店、新大衆小説全集 第6巻 角田喜久雄編所収。 角田喜久雄の出世作の一つ。何度も映画化されていた。将棋谷とは信州飯田の山奥の隠れ里だが、蝦夷の民の一部が移り住んだ…

『生首美人』 フォルチュネ・デュ・ボアゴベ、水谷準・訳述

生首美人:ボアゴベ 1949年(昭24)1月、雑誌「苦楽」に掲載。 水谷準は戦前から戦中期にかけて長らく雑誌「新青年」の編集長として名を知られたが、探偵作家としても活躍するとともに仏文科の語学力を生かして、フランス物の推理小説の翻訳も多く手掛けた。…

『宮本洋子』 里見弴

宮本洋子:里見弴 1947年(昭22)苦楽社刊。 日中戦争の激化してきた昭和14年から終戦に至るまでのいわゆる戦中期を過ごしたヒロイン宮本洋子の生活と心情の移り変わりを描く。一流の音楽家同士で結婚したが、夫は召集後間もなく戦死する。その直前までの宮…

『新編 捕物そばや』 村上元三

捕物そばや:村上元三 1955年(昭25)6月~1956年(昭26)5月、雑誌「読切倶楽部」に連載。過去に別の雑誌に掲載されたものの再掲載を含め計12篇。 村上元三が生み出した捕物帳の主人公 加田三七のシリーズは作者自身も愛着があったようで、終戦直後に書き…

『血風呂』 平山蘆江

血風呂:平山蘆江 1934年(昭9)非凡閣、新進大衆小説全集第20巻 平山蘆江集 所収。 平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知ら…

『荒鷲の爪痕』 江見水蔭・万代山影・共著

荒鷲の爪痕:江見水蔭 1905年(明38)青木嵩山堂刊。 江見水蔭の文学結社江水社に加わっていた万代山影(本名・英五郎)との共作となっている。栃木市の女学校で学ぶ仲良しの二人の令嬢が遠足で大平山に登った時、大鷲に襲われて一方の澄子は顔に傷を負い、…

『涙美人』 丸亭素人・訳述

涙美人:丸亭素人 1892年(明25)今古堂刊。 丸亭素人(まるてい・そじん)(1864-1913)は記者作家の一人だが、黒岩涙香とほぼ同世代で、涙香が確立した西洋小説本の訳述業にまるで「二匹目の泥鰌」のように追随して活躍した。涙香が中断した連載物の「美人…

『人間豹』 江戸川乱歩

人間豹:江戸川乱歩 1939年(昭14)新潮社刊、江戸川乱歩選集 第5巻。 乱歩特有の怪人対探偵・明智小五郎の探偵活劇の一つ。少し前に読んだ「蜘蛛男」と骨組みが似通っている。前半は主人公の青年が気に入っていた女性たちを立て続けに人間豹に奪われるスト…

『捕物そばや』(天狗ばなしの巻)村上元三

捕物そばや:村上元三 1953年(昭25)桃源社刊。全11篇所収。 1961年(昭36)12月、雑誌「小説倶楽部」錦秋大増刊号に「軽気球の殺人」のみ再掲載。 捕物そばや:村上元三2 村上元三は戦後の時代小説の代表的な作家の一人だった。剣豪もの、武将もの、侠客…

『因果華族:活劇講譚』 安岡夢郷

因果華族:安岡夢郷 1917年(大6)大川屋書店刊、みやこ文庫第1編「因果華族」 1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第2遍「馬丁丹次」 1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第3編「雪見野お辰」 探偵活劇と悲劇小説をミックスしたような物語構成…

『自殺博士』 大下宇陀児

自殺博士:大下宇陀児 1959年(昭34)同光社出版刊。 1956年(昭31)5月、雑誌「小説倶楽部」増刊号再録「走る死美人」 風采の上がらない元警察署長の私立探偵・杉浦良平と助手の影山青年の活躍する短篇シリーズから6篇を収める。いずれも戦前から戦中にか…

『江戸っ子八軒長屋』 林二九太

江戸っ子八軒長屋:林二九太 1956年(昭31)桃源社刊。 1955年(昭30)7月~12月、雑誌「読切俱楽部」連載。 林二九太(はやし・にくた、1896~ ? ) は当初劇作家として活躍したが、戦中から戦後期にかけてはユーモア作家として多くの作品を残した。この作品…

『鉄仮面』 フォルチュネ・デュ・ボアゴベ

鉄仮面:江戸川乱歩 1940年(昭15)博文館刊。久生十蘭・訳。 1938年(昭13)大日本雄弁会講談社刊。江戸川乱歩・訳。 フランス史における「鉄仮面」の史実はルイ14世時代の奇妙な謎としてデュマやボアゴベをはじめ多くの作家たちの創作欲を搔き立てた。名…

『鞍馬天狗:新東京絵図』 大佛次郎

鞍馬天狗・新東京絵図:大佛次郎 1947年(昭22)1月~1948年(昭23)5月 雑誌「苦楽」連載。 1948年(昭23)大日本雄弁会講談社刊。 倒幕が成就し、明治維新となった直後の鞍馬天狗の後日譚。江戸は東京と改称され、徳川家は駿府に移り、旗本・御家人の多く…

『紫被布のお連:探偵実話』 橋本埋木庵

紫被布のお連:橋本埋木庵 1903年(明36)金槇堂刊。前後2巻。 タイトルの「被布」(ひふ)とは現代人には馴染みが薄いが、和装用語、高貴な婦人の和服の上にはおる上衣のようなもの。(画像参照) 被布 huaban.com これも探偵実話の一つで、明治中期、東京…

『姿なき怪盗』 甲賀三郎

姿なき怪盗:甲賀三郎 1932年(昭7)新潮社、新作探偵小説全集 第3巻。 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集 第2巻。 「怪盗」というよりも「怪人」だろう。盗み程度では済まない、平気で次々に殺人を企てる鬼畜の犯人だ。敏腕記者がやっと取れた休…