明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『奇想天外』 篠原嶺葉

1908年(明41)大学館刊。正続2巻。明治後期の新聞小説は、読者の興味を引こうとして題名を奇異なものにすることが流行した。 嵐の夜に渋谷の森の中で一人の代議士がピストルで殺害された。その死体をヒロインが発見するのだが、関係者たちほぼ全員それぞれ…

『白日夢』 北町一郎

1936年(昭11)春秋社刊。作者は昭和初期から戦後期にかけて探偵小説やユーモア小説の分野で活躍した。多弁な語り口が特徴。この作品は関東大震災後の昭和初期、六大学野球のWK戦を背景に立て続けに起きる殺人事件とそれに振り回される関係者の行動ぶりが描…

『瀧夜叉お仙』 島田柳川(美翠) 

1897年(明30)駸々堂刊。探偵文庫第一編。明治25年からの10年間は明治期の探偵小説の一大ブームが到来し、東京の春陽堂、大阪の駸々堂などが「文庫」「叢書」などのシリーズを組んで盛んに出版していた。奇しくも英国でホームズ物が発表された時期に重なる…

『人の罪』 小栗風葉

1919年(大8)新潮社刊。前後2巻。これは本当に埋もれていた佳品だと思った。日本の近代文学に限って使用される「純文学」という概念のラベルを貼るか否かというのは問題にすべきではないと思う。情景描写も丁寧な筆致で、文芸作品としてよく出来ていて、読…

『旅枕からす堂』 山手樹一郎

1957年~1958年(昭32~33)雑誌「読切倶楽部」に連載。 1958年(昭33)桃源社刊。 「からす堂シリーズ」の第4巻。「千人目の春」から続く「新妻道中」の長篇を収める。互いに親しくなって二年以上になるお紺とからす堂だが、観相で千人の人助けをする大願…

『悪魔の恋』 三上於菟吉

(おときち)1922年(大11)聚英閣刊。当時屈指の流行作家とされた三上の初期の頃の長篇小説である。若い男女の逢引きの場面から始まる。青年は富豪の息子、娘は親の金銭の不始末から身売り同然の結婚を迫られていた。息子は彼女を助けるため金策に走るが、…

『深編笠からす堂』 山手樹一郎

1955年~1957年(昭30~32)雑誌「読切倶楽部」に連載。 1957年(昭32)桃源社刊。山手樹一郎自撰集、第12巻 「からす堂シリーズ」の第3巻。「夜桜お千代」、「花曇り村正」、「教祖お照様」の3中篇を収める。 思うにこのシリーズの主人公はからす堂ではな…

『千軒長者』 水谷不倒

1908年(明41)如山堂刊。作者の水谷不倒は本来国文学者として有名で、浄瑠璃研究や江戸文学についての著作集を出している。40代までは大阪朝日新聞社の記者として新聞連載小説を書いていた。「千軒長者」も人形浄瑠璃の外題になっている「山荘大夫」(山…

『お紺からす堂』 山手樹一郎

1953年~1955年(昭28~30)雑誌「読切倶楽部」に連載。 1955年(昭30)桃源社刊。山手樹一郎自撰集、第3巻 「からす堂シリーズ物」の第2巻。「鬼小町」、「死相の殿様」、「比丘尼変化」、「江戸の兇賊」の4中篇を収める。各篇とも雑誌には4回から長く…