1919年(大8)樋口隆文館刊、前後終全3篇。
大正期のロマン伝奇小説。江見水蔭の軽妙な筆運びがグイグイ読ませてくれる。甲州韮崎から山奥に入ったラジウム鉱泉の星飛村が冒頭の舞台。山歩きで遭難しかけた青年が這う這うの体で一軒の家に助けを乞う。そこには鄙には稀の美人で清楚な人妻がいた。恋愛ロマンの始まりを予見させるが、双方とも身元が明らかになっていくと・・・このような小説の筋立ては天下一品だと思う。インドの秘宝をめぐる争奪戦やら、恋のさや当てやら、ドロドロの愛憎劇やらが盛り沢山なのだが、掛け合い漫才的な可笑しみも加味され、登場人物も多彩で面白かった。水蔭はフィールドワークにも詳しく、秩父の浦山越や日野っ原の横穴墓群など、活劇の場所の選定も巧みに感じられた。☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/908414
https://dl.ndl.go.jp/pid/908415
https://dl.ndl.go.jp/pid/908416
口絵は八幡白帆。