明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『電話を掛ける女』 甲賀三郎

1930年(昭5)新潮社刊。新潮長篇文庫第3編。表題作の中篇の他、『地獄禍』の中篇と『笠井博士』の2つの短篇を収録。関東大震災後の復興期にあたる昭和初期の東京の風俗描写が新鮮に見えてくる。特に冒頭の渋谷の道玄坂の泥濘の道を歩く謎の女の姿は印象深…

『第二の接吻』 菊池寛

1925年(大14)改造社刊。当時、内務省の検閲により発禁図書とされた。このデジタルコレクションではかつて発禁本として保管されていたものを公開している。数カ所で風俗紊乱的表現と指摘された個所には朱筆の跡が残っている。下記にも一部引用したが、当時…

『縛られた女たち』 三角寛

1939年(昭14)大日本雄弁会講談社刊。三角寛はライフワークの「山窩(サンカ)」に関する研究と著作に関わる以前は、朝日新聞の記者としてサツ回りの担当で刑事たちとの交遊が深かった。その折々に得られた刑事の体験談をもとに、得意の筆をふるった6つの…

『日本ミステリー小説史』 堀啓子

2014年、中央公論新社刊。中公新書2285。筆者は明治期の新聞小説の傑作「金色夜叉」が英国小説の翻案であることを解明したことでも知られる。本書はコンパクトな新書版という手軽な分量の中に、日本における明治から戦後に至るまでのミステリー小説の発展史…

『魔の池』 中村兵衛

1907年(明40)大学館刊。大学館という版元は冒険活劇から奇怪なミステリー風の読物に至るまで多数出版していた。これは東京の芝公園弁天池を巡る奇譚。日露戦争が勃発し、軍人たちには出征が目前に迫っていた。若い陸軍大尉は伯爵令嬢と結婚式を挙げる予定…

『鉄鎖殺人事件』 浜尾四郎

(てっさ)1933年(昭8)新潮社刊。「新作探偵小説全集」第6巻。検事出身の私立探偵藤枝真太郎の活躍する長篇推理小説の一篇。銀座の裏通りにある事務所に入り浸る語り手の「私」を含め、ホームズとワトソンの枠組みの居心地の良さがある。タイトルは、被害…

『死骸館』 小原夢外(柳巷)

1908年(明41)大学館刊。小原夢外という作家名についてはほとんど情報が見つからなかったが、下掲のブログ記事により小原柳巷 (1887-1940) と同一人物であったことがわかった。明治末期の20代に夢外、大正時代の30代に柳巷、そして昭和初期には流泉小史…

『相川マユミといふ女』 楢崎勤

1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書第22編。楢崎勤は作家である傍ら雑誌「新潮」の編集者でもあった。この本は表題作の他23篇を収める。都会に生きる孤独な女性の生きざまの寸景の集合体と言える。昭和初期のダンス・ホールで来客の相手をする踊り子とし…

『美人殺』 島田美翠(柳川)

(びじんごろし)1896年(明29)駸々堂刊。探偵小説第10集。明治中期の探偵小説ブームで続々と刊行されたシリーズ本の一冊。この一年後には島田美翠は柳川と名前を変えて、言文一致体に切り替えている。この作品ではまだ叙述部分は文語体になっている。(下…

『古塔の影』 江見水蔭

1922年(大11)樋口隆文館刊。軽い筆致で小説を量産した江見水蔭の晩年の作品ということだが、なぜかこの作品だけはインターネットに公開されておらず、個人送信に限定していた。 物語の舞台は入間市近郊の丘陵一帯、昔朝鮮から渡来した高麗人たちが集落を構…