明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『夜半の嵐』 泉清風

1919年(大8)春江堂刊。泉清風(せいふう)は大正期に欧米から輸入された無声映画のノベライズ本の作者として活躍した。数年で20数点を出している。しかしノベライズ本の多くは、写し出された映像に従属して語りを加えるためか、普通の小説本や講談本に比…

『黒闇鬼』 丸亭素人・訳

1891年(明24)今古堂刊。(こくあんき)原作者は明らかにされていないが、作風からするとボワゴベではないかと推察する。丸亭素人(まるてい・そじん)は黒岩涙香と肩を並べるほどの訳述者で、文体も似通っている。パリとその郊外の町を舞台に、田舎町に隠…

『獅子の牙』 水谷準

1948年(昭23)八重垣書房刊。作者の水谷準の名前は戦後のフランス推理小説の文庫本で翻訳者として知られていた。作家でもあったが、長年「新青年」の編集長として活躍していたので、作家としての作品数は多くない。現在、国会図書館デジタル・コレクション…

『変装の怪人:怪奇小説』 鹿島桜巷

1905年(明38)大学館刊。序文でドイツの小説からの翻案であると明言している。言文一致体への移行が盛んに行われていた時期ながら、旧来の文語体表記で書かれている。「~たり」「~けり」「~なり」など格調は高いけれども、鹿島桜巷(おうこう)の語り口…

『呪いの家』 松本泰

1922年(大11)金剛社刊。松本泰秘密小説著作集第2編。ロンドンの古い趣のある一軒家に住むことになった日本人家族の物語。書き下ろしの出版と思われる。中間部にこの屋敷にまつわる恋愛がらみの別個の物語がまるで枠物語のように組み込まれている。筆者自…

『英国孝子ジョージスミス之傳』 三遊亭円朝

1885年(明18)速記法研究会刊、8分冊。 1991年(明24)上田屋刊。「黄金の罪」(こがねのつみ) 1927年(昭2)春陽堂刊、円朝全集巻の九。 明治中期になって、坪内逍遥の「当世書生気質」や円朝の速記本などによって言文一致体への動きとともに文学の充実…

『不思議』 三宅青軒

1903年(明36)文泉堂刊。珍しい「われは」という一人称で京都在住の青年作家がミステリー仕立ての物語を語る。言文一致体の「だ」「である」を使っているが、語尾だけを漢文調から置き換えた感じで文体としてはどこか堅苦しさがある。東京にいる親友の法学…

『笠井松太郎:義勇仇討』 平林黒猿

1911年(明44)松本金華堂刊。正続2巻。口演の平林黒猿(ひらばやし・こくえん)も明治後期に活躍した講談師の一人と思われるが、情報はほとんど出てこない。この作品も剣豪・仇討物の一つで、続篇に「仙台義勇の仇討」とあり、仙台城下にて仇討が遂げられ…

『横山花子』 渡辺黙禅

1913年(大2)樋口隆文館刊。前後2巻。前に読んでいた「千里眼」の後日譚である。幼児だったヒロインの花子が花も恥じらう19歳の娘に成長している。母親譲りの美貌が災いして強欲な実業家一味に何度もかどわかされそうになる。結局彼女は、その身上の転変や…

『地獄谷:探偵奇譚』 俊碩剣士(北島俊碩)

1916年(大5)春江堂刊。大正期になると欧米から輸入された映画の中でも連続活劇物が人気を博した。各地で上映されると同時に新聞や雑誌、単行本でノベライズされた作品が大量に出回った。またそれに触発されるように日本を舞台とした探偵活劇、これは推理や…

『ほととぎす』 規子

1912年(明45)湯浅春江堂刊。もともと「不如帰」(ほととぎす)は徳富蘆花の小説で、1900年出版されると当時の大ベストセラーとなった。相思相愛の幸せな結婚をしながらも、頑固な姑や片恋慕の男の諌言、結核への羅患などで離婚を余儀なくされ、悲惨な中で…

『新奇談クラブ』 野村胡堂

1932年(昭7)春陽堂刊。日本小説文庫216~218 所収(3分冊)。銭形平次の連作のみ有名な野村胡堂だが、その少し前に一連の「奇談クラブ」という中短編集を書いていた。あまり知られていないが、戦後「奇談クラブ」5篇と「新奇談クラブ」13篇をまとめて…

『千里眼』 渡辺黙禅

1913年(大2)樋口隆文館刊。前後続の全3巻。明治改元直後2~3年の社会制度の定まらない混乱期における、新橋の美人花形芸者梅吉とその一子花子の波乱万丈の物語。タイトルの「千里眼」は花子に備わる透視能力のことを指すつもりだったが、この3巻ではま…

『疑問の黒枠』 小酒井不木

1927年(昭2)波屋書房刊。世界探偵文芸叢書第7篇。38歳で早逝した小酒井不木の代表作の一つ。彼自身医学者であり、その知識を反映させた探偵小説を精力的に書き始めて4年足らずで世を去った。「黒枠」とは新聞の死亡広告記事のことであり、悪戯で掲載され…

『実説古狸合戦:四国奇談』 神田伯龍

1910年(明43)中川玉成堂刊。四国徳島に伝わる狸合戦の話を神田伯龍が講談の形で演じたものの筆記本である。江戸時代までは狐狸と人間との化かし合いなどが多く語られていたが、狸の二大勢力の合戦を擬人的に描写し、細かに記録した物は極めて珍しい。主人…