明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『日の丸太郎:豪傑小説』 三宅青軒

日の丸太郎:三宅青軒2

1908年(明41)大学館刊。前後全2巻。

 副題に「豪傑小説」と銘打った明治の壮士が活躍する話。東京二六新聞に連載。主人公の日の丸太郎という名前からしてお伽話めいているのだが、いきなり上野の花見の場に現れて国粋論を演説する。彼は気迫と胆力で他を圧倒するが、その狙いとするのが外国文化からの影響の排除と古来の日本人の大和魂の称揚だという。この大和魂の概念がなかなか漠然としていて今となってはわかりにくい。

 当時の内閣批判やら日清協力による列強との対峙策など、小説に時事問題を織り込んだ作者の放談になっていた。また江戸から明治まで続いた吉原などの性風俗の詳述もある。言いたい放題の筆致はそれなりに興味深かったが、何よりも殺傷沙汰に至る前に議論を戦わせて解決策を見出そうし、うまくすれば党派の寝返りを誘おうとする姿勢なのが面白かった。☆☆

 

日の丸太郎:三宅青軒1

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/887985

https://dl.ndl.go.jp/pid/887986

口絵は萬里。

 

日の丸太郎:三宅青軒3

『日本の紀元二千五百六十八年以来、伝へ伝へた何億でえ大和魂を、只一身に集めて持った日の丸太郎と呼ぶもんだぞ。明治になって西洋と付合ってからは、何でも西洋々々と無闇に毛唐を有難がりやァがる馬鹿野郎が殖ゑて蒸気だ電気だ何だかんだと、下手な手品のやうな仕事に恐れ入って吃驚して、結構な大和魂を潰して、一同(みんな)で腑抜け玉になッて仕舞やァがる。さ其奴を怒って此太郎様がお出まし遊ばされた。』(泡沫魂)



『乗合の男女を見なさい、大抵はお蚕ぐるみ、不景気てえ風は何處を吹くかと言ッた面だ。無闇に見栄坊になッて身分不相応の贅沢を極めて、其癖(そのくせ)怠けて真面目に働かない。其結果は、不義理借金不信用、人の同情を失ッて自殺すると言ふ順序。文明の毒は斯して社会を腐らして行く上に、夫婦を土台とした西洋の文学、只さへ人間の溺れ易い男女の情を描いて、神聖の恋愛だの性欲だの自然だのと、左も左も尤もらしい理屈をつけて煽る。』(文明は癩病者)



『日本も一等国に慫懣(おだて)上げられ、文明のお付合で、無闇に贅沢に流れて下らなく忙しくなると、怠け者の食詰め浪人は、社会党などど、詰らない毛唐の真似を仕出す。気が弱い野郎は、これも毛唐を学んで、自然に返れなんて、折角進むで来た人間を野獣の昔しに戻さうと噪(さわ)ぐ。ねえ、独逸の社会主義仏蘭西自然主義、国家を野原にし人間を野獣にする様な屁理屈は、固(もと)より我日本魂の容れないところ。さァ其処で、お前等実業家は確(しっ)かり褌を締めて其の利己主義を利国主義に更(か)へなくちゃならねい。』(日本的実業家)



『近い例が日清戦争の時だ。折角取った満州さへ露独仏の三国干渉でおぢゃんにされて仕舞たぢゃねいか。エ、日露戦争の講和談判にも、日本へ償金を取らさなかッた奴があるぞ。日本(やまと)魂は今や世界中の的になッて居る。油断も隙もなるものかい。』(軍費は富豪税)

 

 

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『女優 菊園露子』 三宅青軒(緑旋風)

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