明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『不知火奉行』 横溝正史

1956年(昭31)6月~8月、雑誌「小説倶楽部」連載。 1957年(昭32)同光社出版刊(新作・大衆文学全集)。 横溝の時代物の一冊。表題作は雑誌掲載時に「江戸のルパン」と副題が付いていた。黒頭巾の謎の浪人が「不知火」という名前で参上するが、その正体が…

『稲妻小僧貞次:探偵講談』 春廼家朗月

1902年(明35)井上一書堂刊。明治犯罪史上、大賊の「稲妻強盗・坂本慶次郎」として知られる人物は、1899年(明32)2月に逮捕され、1900年(明33)2月に処刑された。講談師春廼家朗月はその人物の氏名を高本貞次郎にもじり、枚挙にいとまがない犯行の数々の…

『稲妻小僧:探偵実話』 狂花園主人

1898年(明31)1月~6月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。連載17回以降欠号。 明治期における「稲妻強盗」あるいは「稲妻小僧」という呼び名は、犯行の素早さ、逃げ足の速さなどの強盗に対して普通名詞のように使われた傾向が見られる。ひょっとした…

『永遠にわれ愛す』 田村泰次郎

1955年(昭30)東方社刊。 1951年 6月~1952年 10月、雑誌「婦人生活」連載。(雑誌連載は前半欠号) 戦後の文学界を代表する一人、田村泰次郎 (1911-1983) は代表作『肉体の門』などで性情や肉欲の表現を自由に描いて注目されたが、この婦人雑誌への連載小…

『青貝進之丞人斬控』 高木彬光

1957年(昭32)9月~1958年(昭33)5月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)東京文芸社刊。「女自雷也」「魔像往来」「妻恋坂の決闘」など7篇所収。 高木彬光の剣客物の時代小説。江戸の両国橋の袂で自分の命を売るという商売をする浪人・青貝進之丞は目…

『べらんめえ剣法:若さま侍捕物手帖』 城昌幸

1952年(昭27)3月~1953年(昭28)2月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)同光社出版刊。「手妻はだし」「天狗隠し」「名指し幽霊」など12篇所収。 城昌幸の代名詞ともなった『若さま侍捕物手帖』のシリーズは戦前の1939年(昭16)に第1作を書いてから…

『赤潮』 大橋青波

1919年(大8)春江堂刊。前後2篇。作者の大橋青波(せいは)は名古屋の新聞社の記者として働く傍ら、作家として小説を書く健筆家として知られていたが、生没年や経歴はほとんど不明。その後上京して作家として独立したらしい。古巣の名古屋の新聞界とは繋が…

『遠い青空』 牧野吉晴

1956年(昭31)東京文芸社刊。 1951年(昭26)1月~1952年(昭27)6月 雑誌「婦人生活」連載。 戦中から戦後にかけての混乱期における相思相愛の男女を翻弄した運命の行き違いと愛情の純化を描く。両親の急死で孤児となったヒロインの知恵子は、唯一の身寄り…

『塚原卜伝二代の誉』 錦城斎一山

1898年(明31)2月~4月 雑誌「人情世界」連載 1898年(明31)11月、博盛堂刊。 錦城斎は、江戸の講談師の一龍斎系列の名跡である。ここで口演しているのは二代目錦城斎一山(いっさん)(1858-1900)で、42歳で早逝する直前になる。剣術の名人塚原卜伝ではな…

『?(ぎもん)の女:秘密小説』 玉川真砂子

1919年(大8年)共成会出版部刊。大正期の女性ミステリー作家と思われるが、この作品1冊のみで、生没年も不明。タイトルに疑問符?を使っている点も気になって読んでみた。ある殺人事件をきっかけに重要人物が身を隠すという設定はミステリー小説の手法のパ…

『江戸の恋人達:銭形平次捕物控』 野村胡堂

1950年(昭25)矢貴書店刊。新大衆小説全集第10巻所収。長篇を読むのは2作目となるが、事件の骨組みが最初の『娘変相図』と似通っていて、なかなか捜査の糸口が見えないのもむしろ平次たちの行動に緩慢さを感じた。未遂も含めて連続殺傷事件の被害者が多く…