2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧
1889年(明22)駸々堂刊。作者の香川宝州は生没年など不詳。別に遠塵舎とも号した講談師だったが、これは口演の速記本ではなく、自前で書き下ろした作品ということになる。題名の「檮衣声」(とおきぬた)は唐の詩人李白の「子夜呉歌」にある《萬戸檮衣声》…
1893年(明26)今古堂刊。前後2巻。原作は明記されていないが、フランスの新聞小説(フィユトン)作家、おそらくボアゴベかガボリオと思われる。パリを舞台とした探偵・追跡劇だが、丸亭素人(まるてい・そじん)も涙香と同様に、人物や地名を和風に置き換…
1893年(明26)春陽堂刊。探偵小説第6集。明治中期の第1次探偵小説ブームの影響で売れなくなった硯友社の作家たちへ春陽堂が話を持ちかけ、匿名を条件に探偵小説の翻訳もしくは執筆を依頼したもの。真の作家名は不明のままで残されたものが多く、文体はし…
1921年(大10)博文館刊。当時実際に京橋五郎兵衛町で素行調査などの私立探偵事務所を経営していた岩井氏が取り扱った案件を、個人情報・位置情報をすべて書き換えて紹介するという事件簿。書籍としては岩井氏本人の著作としているが、本文では各エピソード…
1891年(明24)都新聞社刊。黒岩涙香の翻案物の一つ。原作はボアゴベ(Fortuné du Boisgobey) の新聞小説「真っ二つのジャン」(Jean coup-en-deux)。登場人物は日本人名に置き換えているが、パリが舞台なのはそのままである。殺人現場にいた男は警察に捕えら…
(こいしきあだ)1911年(明44)樋口隆文館刊。作者の小川霞堤(かてい)については生没年や略歴のほとんどが不明。残された作品の年代から見ると大正期の3カ年(1916~18) しかない。名前の霞堤については、共作者の黒法師が多作家の渡辺霞亭(1864-1926)の…
1918年(大7)中村日吉堂刊。作者、青木緑園に関しても生没年や略歴が不詳のままになっている。当時人気があった活動写真(映画)のノベライズ本も数冊出していて、脚本部主任という肩書もあったので脚本家出身とも言えそうだ。特に中村日吉堂のほぼ専属作家…
1890年(明23)明進堂刊。黒岩涙香がフランスの流行作家ボアゴベ(Boisgobey)の作品「他言無用」(Bouche cousue)から抄訳し、登場人物を日本名に、また環境設定を明治の日本に置き換えた翻案物の一つ。隣室での殺人現場を覗き見した女性に対する悪人たちから…
1896年(明29)盛花堂刊。明治中期(1890年前後)は探偵小説の黎明期だった。多田省軒(せいけん)は黒岩涙香とほぼ同時期の作家だが、生没年や略歴などの情報は皆無に近い。しかし残された作品数は多く、当時は人気があったと思われる。文体は漢文調が基本…
1894年(明27)三友舎刊。講談速記本。演者の松林伯知(しょうりん・はくち)は松林派の高弟で、伯円に続き非常に多くの講談本を出した。明治中期頃の最初の探偵小説ブームでは近代的な題材の探偵講談も行われ、講談師自身が創作したものもある。これはその…
(てんぽう・かいそでん)1997年(明30)大川屋書店刊。上下2巻。江戸時代の有名な義賊・鼠小僧治郎吉の一代記を名講談師・松林伯圓(しょうりん・はくえん)が口演したのを速記した本になる。この他にも白浪物という怪盗たちを演題に上げたのが当時の聴衆…
1914年(大3)隆文館刊。口絵を切り取った後らしく、本の表紙から口絵と本文の最初の2頁までが欠落していた。当時は口絵だけ集めるためにこうした切り離しは少なくなかったようだ。別途「木版口絵総覧」から鏑木清方のものと判明。この一枚の絵を見ただけで…
1909年(明42)島之内同盟館刊。この版元は大阪で講談本を主として刊行していた。山崎琴書(きんしょ)は講談師で、当世風の探偵講談も数多く手掛けた。人名のタイトル(特に女性の)をつけることは明治期には流行していたらしい。容姿端麗、立ち居振る舞い…
(ひとのうらみ)1915年(大4)樋口隆文館刊。前後終篇全3巻。作者(ゆきとも・りふう)は劇作家としても知られたが、この作品は「書き講談」のスタイルで語り口はなめらか、テンポも快い。江戸歌舞伎の花形、初代および二代目市川団十郎の芸道の事績と生き…
(ちぞめのハンカチ)1909年(明42)樋口隆文館刊。花鳥叢書第1巻。深夜の巡視中にある洋館での殺人事件に駆けつけた大石巡査は、数日後に刑事となる辞令を受けて自ら捜査に取り組むことになった。人力車夫の話から、当夜現場から車に乗った娘が血染めのハン…
1912年(明45)実業之日本社刊、全9篇。書名から想像すると「明治時代の家庭向けの新しい講談集」だろうと思ったが、題材はいずれも江戸時代の出来事で、武士の妻女に関する逸話集のようなものだった。中でも印象に残ったのは、最初の「誉の夫婦」伊達藩の…
1915年(大4)樋口隆文館刊。前後2巻。ヒロインは美人泥棒の容子で、横浜の医師の家から劇薬を盗もうとしていた。この女の正体は中国人の革命の闘士、鄭紫蘭だった。時代背景は辛亥革命直後の混乱期で、中国では軍閥に支持された袁世凱が実権を掌握していた…
1898年(明31)駸々堂刊。(びじんとぴすとる)探偵小説叢書28集。明治中期になると探偵小説が人気を集め、各社からシリーズを組んで盛んに出版されるようになった。欧米の推理小説に比べればまだまだ物語としての骨組みが稚拙だが、犯罪の発生から犯人の逮…
1919年(大8)樋口隆文館刊。前後続篇の全3巻の長編小説。オランダ植民地下のインドネシアのバタビヤ(現ジャカルタ)が主な舞台。妖艶な美人魔術師ジャグラー京子と現地でゴム園経営を失敗した日本人青年甘露寺滋との恋愛模様を挟みながら、日本領事一家と…
1906年(明39)隆文館刊。黒法師も渡辺霞亭の筆名の一つで、続けて2作読むことになった。旧家の令嬢で両親の遺産を相続し、家令の献身的な奉仕で何不自由なく暮らしてきたヒロイン龍子は、結婚相手と心に決めていた男が別の女と結婚してしまい、嫉妬で自暴…
1918年(大7) 樋口隆文館刊。講談速記本の一つで怪談話の部類。正続2巻。演者の浮世亭夢丸は昭和期の関西の落語家の名前でもあるのだが、この本の出版はそれよりも年代が古く、まったくの別人と思われる。講談師としての情報は、明治末期から大正時代までの…
1900年(明33)金松堂刊。渡辺霞亭(かてい)は明治大正期の作家で、多くの筆名を持ち、新聞小説を量産した。「探偵実話」の副題の通り、実際に起きた事件に基づいて再構成された小説。冒頭に、挙動不審な男たちによって埋められた箱の中から美人の他殺死体…
1913年(大2)磯部甲陽堂刊。これは英国の推理小説を三津木が翻訳したものだが、当時は原作や作者名を明記しない方が多かった。地名、人名も和風に言い換えている。文体はよく練れており、単純明快で読みやすい。しかしながら特に英国物は謎解きやトリック破…
(なかむら・むらお)1909年(明42)日高有倫堂刊。明治末期時点での文壇の中心人物と目された作家、詩人、歌人、評論家の28人との会見記をまとめたもの。最近、講談社から「明治の文豪へのノーアポ、突撃インタビュー!」という宣伝文句で再刊されている…
1901年(明34)金槇堂刊。作者の遅塚麗水(ちづか・れいすい)は作家、新聞記者で紀行文の大家として知られた。表題の「吹雪巴」(ふぶきどもえ)は《雪は卍巴(まんじともえ)に降りしきり》など、互いに入り乱れて雪が降る様子を形容する明治期の言い方で…
1895年(明28)今古堂刊。作者の半井桃水(なからい・とうすい)は樋口一葉の文筆修行を指導した。華族出の主人公、長尾拙三は物好きから警察署勤務に甘んじている。自らが雨の夜の殺人事件に遭遇したことから捜査を開始する。今で言えば「エリート刑事の事…