明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『平和の巴里』 島崎藤村

平和の巴里:島崎藤村 1915年(大4)左久良書房刊。 島崎藤村は41歳の年、1913年4月に神戸から出国して1916年7月に帰国するまでフランスに滞在した。その背景には家庭環境のいざこざがあったという。ちょうど第一次世界大戦が勃発する直前で、パリからの書簡…

『人の妻:探偵小説』 冷笑散史

人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多…

『白蘭紅蘭』 藤沢桓夫

白蘭紅蘭:藤沢桓夫 1952年(昭27)湊書房刊。 1950年(昭25)9月~1951年(昭26)12月、雑誌「婦人生活」連載。 独身で吝嗇家の叔父が多額の財産を残して死去した。平凡なサラリーマンの青年は相続人となったが、ある見知らぬ女性との結婚が前提条件とされ…

『蜘蛛男』 江戸川乱歩

蜘蛛男:江戸川乱歩 1930年(昭5)大日本雄弁会講談社刊。 都心のビル街に美術商を騙って妙齢の美人姉妹を次々と篭絡する謎の怪人蜘蛛男。その手口は猟奇的な乱歩の世界そのものだが、作中に言及されるように欧州の怪奇童話「青髭」に似通った陰惨な罪業も見…

『坊ちゃん羅五郎』 白井喬二

坊ちゃん羅五郎:白井喬二 1942年(昭17)淡海堂出版刊。 1948年(昭23)講談社(小説文庫) 尾張の代官の御曹司として気ままに育ったように見える羅五郎は、付け人の呂之吉と共に代理で調停に出かけたが、その間に父親が冤罪で免職となる。それに対して一本…

『九番館』 長田幹彦

九番館:長田幹彦 1921年(大10)博文館刊。 長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という…

『生首正太郎:探偵実話』 あをば(伊原青々園)

生首正太郎:伊原青々園 1900年(明33)金槙堂刊。前中後全3巻。時事新報連載136回。 明治から昭和初期にかけて作家および劇評家として活躍した伊原青々園(1870~1941)(本名:敏郎)は20代の頃「あをば」という筆名で新聞小説を書いていた。これは「あを…

『迷宮の鍵:探偵情話』 江見水蔭 

迷宮の鍵:江見水蔭 1923年(大12)博文館刊。 江見水蔭(1869~1934) は硯友社の門人で、明治期での多作家の一人とされている。「はしがき」にもある通り、日本で最初に「探偵小説」(犯人探しの)を書いたようだ。この本には「芸妓殺し」の中篇をはじめ、他…

『伝奇紫盗陣』 土師清二

伝奇紫盗陣:土師清二 1940年(昭15)博文館文庫 173, 174所収。前後2巻。 (でんき・むらさきとうじん)珍しくも鎌倉時代を背景とした伝奇小説である。北條氏の執権政治の1200年代から江戸時代の1700年代までは500年の隔たりがあるのだが、武家時代の風俗…

『青い樹氷』 大庭さち子

青い樹氷:大庭さち子 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)7月 雑誌「新婦人」連載。 作者の大庭さち子 (1904~1997) は戦中から戦後にかけて少女向けの小説を中心とした創作活動を続けた。戦後は婦人雑誌等に、旧来の道徳観念に縛られてきた女性の生き方を問…

『二番線発車』 高見順

二番線発車:高見順 1955年(昭30)1月~12月、雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)東方社刊。 お嬢様育ちのヒロイン恵子が、初めて社会に出て働こうとして父親の紹介した会社に就職する。職場の先輩として積極的に声をかけてくれた男に好感を持つが既婚…

『黒壁』 水上勉

黒壁:水上勉 1961年(昭36)1月~11月、雑誌「新週刊」連載。 1961年(昭36)12月、角川書店刊。 1963年(昭38)角川小説新書。 黒壁:水上勉2 (こくへき)山伏信仰で知られる熊野川流域での殺人事件。電力開発工事の監督官庁の敏腕課長が現地への出張中に…

『夕立勘五郎』 神田伯山

夕立勘五郎:神田伯山 1929年(昭4)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第8巻所収。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第18巻所収。これは戦後再刊されたものだが、演者名は無記名となっている。ほとんどが戦前刊の三代目と同じ口調なのだが、所々…