明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『短銃』 半井桃水(桃水痴史)

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(ぴすとる)1896年(明29)金桜堂刊。妻子を置き去りにして蒸発した男・横瀬は7年後に金持ちになって米国から帰ってきた。妻の実家を訪ねると年老いた義父と自分の息子だけがいて、妻は死んでいた。彼は弁護士の友人と東京に行き、ある実業家の邸宅を訪ねるが、そこの庭で不意に銃撃され、瀕死の重傷を負った。なぜ撃たれたのかの理由もわからないまま、目撃証言からその友人が撃ったとして収監される。横瀬は何とか助かるが、その目撃証言を覆さない限り友人の無実の罪を晴らす手段はなかった。その証言くずしの過程で、彼の過去と事件のからくりがあからさまになってくる。登場人物が少ない中で、人間関係がはめ込み細工のように型に収まるのはやり過ぎの感じがするが、どうやって真相を明かせるのか?の興味は引きつけてくれた。作者半井桃水樋口一葉を指導した作家だが、文学的香気などはさほど感じなくとも、物書きとしての安定感はあったと思う。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵・挿絵は右田年英。

dl.ndl.go.jp

 

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