明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

探偵小説

『死神博士』 高木彬光

死神博士:高木彬光 1950年(昭25)5月~ 雑誌「少年少女譚海」連載。 1951年(昭26)偕成社刊。 高木彬光の生み出した名探偵神津恭介(かみつ・きょうすけ)の活躍する少年少女向けの探偵活劇。ある夜に大学病院の外科部長が謎の女によって拉致され、死んだ…

『火葬国風景』 海野十三

火葬国風景:海野十三 1935年(昭10)春秋社刊。 海野十三(1897~1949)は昭和初期から終戦直後にかけて活躍したが、当初は探偵小説家としての作品が多かった。この一冊は単行本としての四番目の作品集で、表題作「火葬国風景」の他に8篇収められている。…

『踊子殺人事件』 武田武彦

踊子殺人事件:武田武彦 1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。 武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文…

『窓』 山本禾太郎

窓:山本禾太郎 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集第17篇所収。(4篇) 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集、第35巻所収。(2篇) 山本禾太郎(のぎたろう、1889~1951)は「新青年」に『窓』が入選したのを機に作家活動に入った。戦前期における…

『頭の悪い男』 山下利三郎

日本探偵小説全集:改造社版、第15篇(山下・川田集) 1930年(昭5)改造社、日本探偵小説全集 第15篇(山下利三郎・川田功集)14篇所収 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 4篇所収 山下利三郎(1892~1952)は大正後期の雑誌「新青…

『浮れてゐる「隼」』 久山秀子

隼の勝利:久山秀子 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 6篇所収。 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16篇(浜尾・久山集)15篇所収。 久山秀子は「隼のお秀」と呼ばれる女掏摸(スリ)であり、何人もの手下を抱えている。身…

『二人毒婦』 江見水蔭

二人毒婦:江見水蔭 1926年(大15)樋口隆文館刊。前後全2巻。 江見水蔭の小説には、交通が不便だった明治・大正期の観光地、保養地、遊興地の様子を生き生きと描いている個所が多い。この作品では年始を避寒の地で迎える大洗海岸やそこの旅館の様子など。…

『神木の空洞』 甲賀三郎

神木の空洞:甲賀三郎、山名文夫・画 1928年(昭3)1月~5月、雑誌「女性」連載(中断) 1930年(昭5)先進社、大衆文庫第6巻所収。 「神木の空洞」(しんぼくのうつろ)は現在は古書の稀覯本もしくは国会図書館デジタル・コレクションでしか読むことができ…

『生首美人』 フォルチュネ・デュ・ボアゴベ、水谷準・訳述

生首美人:ボアゴベ 1949年(昭24)1月、雑誌「苦楽」に掲載。 水谷準は戦前から戦中期にかけて長らく雑誌「新青年」の編集長として名を知られたが、探偵作家としても活躍するとともに仏文科の語学力を生かして、フランス物の推理小説の翻訳も多く手掛けた。…

『自殺博士』 大下宇陀児

自殺博士:大下宇陀児 1959年(昭34)同光社出版刊。 1956年(昭31)5月、雑誌「小説倶楽部」増刊号再録「走る死美人」 風采の上がらない元警察署長の私立探偵・杉浦良平と助手の影山青年の活躍する短篇シリーズから6篇を収める。いずれも戦前から戦中にか…

『江川蘭子』 江戸川乱歩・他5人の合作

江川蘭子:江戸川乱歩 他5人 1931年(昭6)博文館刊。(頁の損耗および落丁あり) 1947年(昭22)探偵公論社刊。 長篇連作探偵小説と銘打ってのリレー形式の作品。①江戸川乱歩、②横溝正史、③甲賀三郎、④大下宇陀児、⑤夢野久作、⑥森下雨村という昭和初期の第…

『人の妻:探偵小説』 冷笑散史

人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多…

『蜘蛛男』 江戸川乱歩

蜘蛛男:江戸川乱歩 1930年(昭5)大日本雄弁会講談社刊。 都心のビル街に美術商を騙って妙齢の美人姉妹を次々と篭絡する謎の怪人蜘蛛男。その手口は猟奇的な乱歩の世界そのものだが、作中に言及されるように欧州の怪奇童話「青髭」に似通った陰惨な罪業も見…

『九番館』 長田幹彦

九番館:長田幹彦 1921年(大10)博文館刊。 長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という…

『指環』 黒岩涙香

涙香 指環 1889年(明22)金桜堂刊。原作はフォルチュネ・デュ・ボアゴベ (Fortuné du Boisgobey, 1821~1891) の新聞連載小説『猫目石』(L’œil de chat) だが、涙香は元々の仏語から英訳された本からの重訳で記述していた。発表から1年後には和訳が出版さ…

『夜叉夫人』 樋口ふたば

夜叉夫人1 1897年(明30)聚栄堂刊。書名『夜叉夫人』、作者名:樋口二葉(ふたば) 1910年(明43)晴光館刊。書名『鮮血淋漓』、著者名:樋口新六 (靄軒居士) 1911年(明44)日吉堂刊。書名『意外の秘密』、著者名:やなぎ生 樋口二葉(ふたば)(1863~19…

『べらんめえ剣法:若さま侍捕物手帖』 城昌幸

1952年(昭27)3月~1953年(昭28)2月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)同光社出版刊。「手妻はだし」「天狗隠し」「名指し幽霊」など12篇所収。 城昌幸の代名詞ともなった『若さま侍捕物手帖』のシリーズは戦前の1939年(昭16)に第1作を書いてから…

『烈女富士子』 松林右圓

1897年(明30)3月~8月 雑誌「人情世界」連載。松林右圓(しょうりん・うえん、1854-1919)は泥棒伯圓と称された二代目松林伯圓の弟子で、1901年に伯圓を襲名して三代目となった。この講演速記物の連載時はその直前の時期にあたる。右圓の速記本は極めて少…

『鉄鎖殺人事件』 浜尾四郎

(てっさ)1933年(昭8)新潮社刊。「新作探偵小説全集」第6巻。検事出身の私立探偵藤枝真太郎の活躍する長篇推理小説の一篇。銀座の裏通りにある事務所に入り浸る語り手の「私」を含め、ホームズとワトソンの枠組みの居心地の良さがある。タイトルは、被害…

『美人殺』 島田美翠(柳川)

(びじんごろし)1896年(明29)駸々堂刊。探偵小説第10集。明治中期の探偵小説ブームで続々と刊行されたシリーズ本の一冊。この一年後には島田美翠は柳川と名前を変えて、言文一致体に切り替えている。この作品ではまだ叙述部分は文語体になっている。(下…

『白日夢』 北町一郎

1936年(昭11)春秋社刊。作者は昭和初期から戦後期にかけて探偵小説やユーモア小説の分野で活躍した。多弁な語り口が特徴。この作品は関東大震災後の昭和初期、六大学野球のWK戦を背景に立て続けに起きる殺人事件とそれに振り回される関係者の行動ぶりが描…

『瀧夜叉お仙』 島田柳川(美翠) 

1897年(明30)駸々堂刊。探偵文庫第一編。明治25年からの10年間は明治期の探偵小説の一大ブームが到来し、東京の春陽堂、大阪の駸々堂などが「文庫」「叢書」などのシリーズを組んで盛んに出版していた。奇しくも英国でホームズ物が発表された時期に重なる…

『丹那殺人事件』 森下雨村

1935年(昭10)柳香書院刊。雨村は「新青年」の編集者でありながら、英米の推理小説の翻訳にも積極的で、ヴァン・ダイン、クロフツ、フレッチャーなどを紹介した。さらに自ら創作にも手を染め、力作を残した。この「丹那」も長篇で、最初は週刊朝日に連載さ…

『博士邸の怪事件』 浜尾四郎

1931年(昭6)新潮社刊。長篇文庫第20編。浜尾四郎は現職の検事として勤務した後、辞職して弁護士事務所を開設した。作家としては5年余りのみで、39歳で脳溢血で急死した。作風は非常に簡潔かつ明晰で、理知的な筆致で説得性がある。自身の経歴を反映させ…

『両国の秋:綺堂読物集』 岡本綺堂

1939年(昭14)春陽堂刊。タイトルの「両国の秋」は綺堂の作品中で情話集に分類される江戸期の男女の情愛のもつれを描いた中篇になる。春陽堂のこの一巻には、他に半七物の最後の四篇と共に半七の外典とされる『白蝶怪』の中篇が併収されていた。 『両国の秋…

『三十九号室の女』 森下雨村

1935年(昭10)朝日新聞社刊。週刊朝日文庫第1輯。昭和初期のレトロ感に満ちた東京の街並みの描写に心温かさを感じる。東京駅で呼び出しを受けた主人公が電話口に出ると先方で女性の叫び声が聞こえ、電話が切れる。発信元は有名ホテルだった。電話が貴重で…

『カートライト事件』 フレッチャー作、森下雨村訳

1928年(昭3)改造社刊。世界大衆文学全集第8巻。森下雨村訳。いわゆる円本時代に各社から出された全集本の一つ。フレッチャー (J.S.Fletcher, 1863-1935) はイギリスの小説家。広範囲なジャンルでの作家活動で知られたが、推理小説がメインであったと思われ…

『殺害事件』 丸亭素人・訳

1990年(明23)今古堂刊。原作はエミール・ガボリオ(Emile Gaboriau, 1832-1873) の『オルシヴァルの犯罪』(Le Crime d’Orcival, 1866) というフランスの新聞連載小説である。原作では名探偵のルコックが活躍するが、多湖廉平(たこれんぺい)に置き換えられ…

『奇々怪々』 三宅青軒

1901年(明34)矢島誠進堂刊。三宅青軒の得意な一人称「われは」で語る格調高い「である」文体。先に読んだ『不思議』もそうだったが、奇をてらうタイトルをつける傾向がある。今回もふと主人公が見染めた美人女性が見かけによらず男勝りの身体能力を有して…

『殺人倶楽部:探偵奇談』 コナン・ドイル 森蜈山・訳

1912年(大1)文成社刊。文成社は偉人伝、処世法、実用書などの出版物が多かった。森蜈山(ござん)による訳書はこの一点しか知られていないが、明治末期におけるホームズ物の翻訳の貴重な例証になっている。文体もこなれていて読みやすい。最初はタイトルが…