明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

探偵小説

『顔のない女:警視庁物語』 長谷川公之 

顔のない女:警視庁物語:長谷川公之 1959年(昭34)小説刊行社刊。 「警視庁物語」という通しタイトルで1956年から東映で製作された映画シリーズのノベライズ本。ここでは第1作の「逃亡五分前」と第9作「顔のない女」を収める。昭和時代の新聞の三面記事…

『昭和挿絵傑作選(大衆読物篇)』 渡辺圭二・解説

昭和挿絵傑作選(大衆読物篇) 1987年(昭62)国書刊行会刊。 普通に買うにはちょっと高価な大型本だが、幸か不幸か国会図書館のデジタル・コレクションの送信サービス(登録要)でネット閲覧が可能だったので、数日掛けて少しずつ堪能した。パソコンの画面…

『人間灰』 海野十三

人間灰:海野十三 1940年(昭15)春陽堂文庫260 どこかSF的寓話の味わいのする短編集全7篇。その大半に海野が生み出した名探偵帆村荘六(ほむら・しょうろく)が顔を出す。 表題作の『人間灰』は、山奥の高原の右足湖畔に建つ空気工場で起きる謎の連続失踪…

『赤外線男』 海野十三

赤外線男:海野十三 1933年(昭8)春陽堂、日本小説文庫307 海野十三(うんの・じゅうざ、1897~1949)の活躍の盛期は戦前・戦中期だった。SFと言うよりも「空想科学探偵小説」と言った方が昭和レトロの雰囲気に合っているように思う。表題作『赤外線男』と…

『犯罪蒐集狂』 高木彬光

犯罪蒐集狂:高木彬光 1955年(昭30)雑誌「小説倶楽部」に「顔のない女」を掲載。 1980年(昭55)桃源社刊。(ポピュラー・ブックス)全6篇。 犯罪蒐集狂:高木彬光、長尾みのる・画 表題作を含め、全6篇の短編集。『犯罪蒐集狂』は侠客を先祖に持つ探偵…

『外相の奇病:神秘探偵』 永代静雄

外相の奇病:神秘探偵、永代静雄 1919年(大8)実業之日本社刊。 永代静雄(ながよ・しずお、1886~1944)は作家としてよりも、明治文学史研究における田山花袋の『蒲団』の登場人物のモデルの一人として注目され、その生涯が「微に入り細に入り」詮索され続…

『神出鬼没園田探偵』(第1編) 森田芝村

神出鬼没園田探偵(第一編):森田芝村 1913年(大2年)弘学館刊。 作者の森田芝村(しそん)については生没年不明。明治末期から大正にかけて「美文的模範書翰」などの文章読本の著者だった記録がある。伊藤秀雄の『明治の探偵小説』でも、探偵小説の黎明期…

『三尺の墓』 高木彬光

三尺の墓:高木彬光 1958年(昭33)東京文芸社刊。 1961年(昭36)12月、雑誌「小説倶楽部」臨時増刊号に「三尺の墓」のみ再掲載。 高木彬光の生み出した探偵のうち最も有名なのは神津恭介だが、別の私立探偵、大前田英策の活躍する作品も少なくない。大前田…

『びろうどの眼』 小島政二郎

びろうどの眼:小島政二郎 1957年(昭32)東方社刊。 小島政二郎(まさじろう)は市井物、風俗小説が多いのだが、これは異色の探偵小説だった。謎の男から財界人を狙って大金を脅迫する髑髏マークの手紙が次々に届く。その約束や期限を守らない場合は車へ爆…

『死神博士』 高木彬光

死神博士:高木彬光 1950年(昭25)5月~ 雑誌「少年少女譚海」連載。 1951年(昭26)偕成社刊。 高木彬光の生み出した名探偵神津恭介(かみつ・きょうすけ)の活躍する少年少女向けの探偵活劇。ある夜に大学病院の外科部長が謎の女によって拉致され、死んだ…

『火葬国風景』 海野十三

火葬国風景:海野十三 1935年(昭10)春秋社刊。 海野十三(1897~1949)は昭和初期から終戦直後にかけて活躍したが、当初は探偵小説家としての作品が多かった。この一冊は単行本としての四番目の作品集で、表題作「火葬国風景」の他に8篇収められている。…

『踊子殺人事件』 武田武彦

踊子殺人事件:武田武彦 1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。 武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文…

『窓』 山本禾太郎

窓:山本禾太郎 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集第17篇所収。(4篇) 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集、第35巻所収。(2篇) 山本禾太郎(のぎたろう、1889~1951)は「新青年」に『窓』が入選したのを機に作家活動に入った。戦前期における…

『頭の悪い男』 山下利三郎

日本探偵小説全集:改造社版、第15篇(山下・川田集) 1930年(昭5)改造社、日本探偵小説全集 第15篇(山下利三郎・川田功集)14篇所収 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 4篇所収 山下利三郎(1892~1952)は大正後期の雑誌「新青…

『浮れてゐる「隼」』 久山秀子

隼の勝利:久山秀子 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 6篇所収。 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16篇(浜尾・久山集)15篇所収。 久山秀子は「隼のお秀」と呼ばれる女掏摸(スリ)であり、何人もの手下を抱えている。身…

『二人毒婦』 江見水蔭

二人毒婦:江見水蔭 1926年(大15)樋口隆文館刊。前後全2巻。 江見水蔭の小説には、交通が不便だった明治・大正期の観光地、保養地、遊興地の様子を生き生きと描いている個所が多い。この作品では年始を避寒の地で迎える大洗海岸やそこの旅館の様子など。…

『神木の空洞』 甲賀三郎

神木の空洞:甲賀三郎、山名文夫・画 1928年(昭3)1月~5月、雑誌「女性」連載(中断) 1930年(昭5)先進社、大衆文庫第6巻所収。 「神木の空洞」(しんぼくのうつろ)は現在は古書の稀覯本もしくは国会図書館デジタル・コレクションでしか読むことができ…

『生首美人』 フォルチュネ・デュ・ボアゴベ、水谷準・訳述

生首美人:ボアゴベ 1949年(昭24)1月、雑誌「苦楽」に掲載。 水谷準は戦前から戦中期にかけて長らく雑誌「新青年」の編集長として名を知られたが、探偵作家としても活躍するとともに仏文科の語学力を生かして、フランス物の推理小説の翻訳も多く手掛けた。…

『自殺博士』 大下宇陀児

自殺博士:大下宇陀児 1959年(昭34)同光社出版刊。 1956年(昭31)5月、雑誌「小説倶楽部」増刊号再録「走る死美人」 風采の上がらない元警察署長の私立探偵・杉浦良平と助手の影山青年の活躍する短篇シリーズから6篇を収める。いずれも戦前から戦中にか…

『江川蘭子』 江戸川乱歩・他5人の合作

江川蘭子:江戸川乱歩 他5人 1931年(昭6)博文館刊。(頁の損耗および落丁あり) 1947年(昭22)探偵公論社刊。 長篇連作探偵小説と銘打ってのリレー形式の作品。①江戸川乱歩、②横溝正史、③甲賀三郎、④大下宇陀児、⑤夢野久作、⑥森下雨村という昭和初期の第…

『人の妻:探偵小説』 冷笑散史

人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多…

『蜘蛛男』 江戸川乱歩

蜘蛛男:江戸川乱歩 1930年(昭5)大日本雄弁会講談社刊。 都心のビル街に美術商を騙って妙齢の美人姉妹を次々と篭絡する謎の怪人蜘蛛男。その手口は猟奇的な乱歩の世界そのものだが、作中に言及されるように欧州の怪奇童話「青髭」に似通った陰惨な罪業も見…

『九番館』 長田幹彦

九番館:長田幹彦 1921年(大10)博文館刊。 長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という…

『指環』 黒岩涙香

涙香 指環 1889年(明22)金桜堂刊。原作はフォルチュネ・デュ・ボアゴベ (Fortuné du Boisgobey, 1821~1891) の新聞連載小説『猫目石』(L’œil de chat) だが、涙香は元々の仏語から英訳された本からの重訳で記述していた。発表から1年後には和訳が出版さ…

『夜叉夫人』 樋口ふたば

夜叉夫人1 1897年(明30)聚栄堂刊。書名『夜叉夫人』、作者名:樋口二葉(ふたば) 1910年(明43)晴光館刊。書名『鮮血淋漓』、著者名:樋口新六 (靄軒居士) 1911年(明44)日吉堂刊。書名『意外の秘密』、著者名:やなぎ生 樋口二葉(ふたば)(1863~19…

『べらんめえ剣法:若さま侍捕物手帖』 城昌幸

1952年(昭27)3月~1953年(昭28)2月 雑誌「読切俱楽部」連載 1958年(昭33)同光社出版刊。「手妻はだし」「天狗隠し」「名指し幽霊」など12篇所収。 城昌幸の代名詞ともなった『若さま侍捕物手帖』のシリーズは戦前の1939年(昭16)に第1作を書いてから…

『烈女富士子』 松林右圓

1897年(明30)3月~8月 雑誌「人情世界」連載。松林右圓(しょうりん・うえん、1854-1919)は泥棒伯圓と称された二代目松林伯圓の弟子で、1901年に伯圓を襲名して三代目となった。この講演速記物の連載時はその直前の時期にあたる。右圓の速記本は極めて少…

『鉄鎖殺人事件』 浜尾四郎

(てっさ)1933年(昭8)新潮社刊。「新作探偵小説全集」第6巻。検事出身の私立探偵藤枝真太郎の活躍する長篇推理小説の一篇。銀座の裏通りにある事務所に入り浸る語り手の「私」を含め、ホームズとワトソンの枠組みの居心地の良さがある。タイトルは、被害…

『美人殺』 島田美翠(柳川)

(びじんごろし)1896年(明29)駸々堂刊。探偵小説第10集。明治中期の探偵小説ブームで続々と刊行されたシリーズ本の一冊。この一年後には島田美翠は柳川と名前を変えて、言文一致体に切り替えている。この作品ではまだ叙述部分は文語体になっている。(下…

『白日夢』 北町一郎

1936年(昭11)春秋社刊。作者は昭和初期から戦後期にかけて探偵小説やユーモア小説の分野で活躍した。多弁な語り口が特徴。この作品は関東大震災後の昭和初期、六大学野球のWK戦を背景に立て続けに起きる殺人事件とそれに振り回される関係者の行動ぶりが描…