明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『稲妻小僧貞次:探偵講談』 春廼家朗月

1902年(明35)井上一書堂刊。明治犯罪史上、大賊の「稲妻強盗・坂本慶次郎」として知られる人物は、1899年(明32)2月に逮捕され、1900年(明33)2月に処刑された。講談師春廼家朗月はその人物の氏名を高本貞次郎にもじり、枚挙にいとまがない犯行の数々の中から物語風に脚色しつつ、無期徒刑で送られた北海道の集治監からの脱走をはじめ、小樽、函館、青森、一ノ関、仙台、塩原、茨城、埼玉、東京など各地での詐欺、強盗、狼藉などをいとも易々と繰り返していく様を語っている。犯罪の連続だけを追っていけば気色が悪くなるが、それを説教じみた語り口で散らしたり、貞次郎が好んで詠んだ和歌の紹介などで、単なる犯罪実話ではない独自の味わいを出している。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/889512

表紙絵と口絵は鈴木錦泉。



《古里に文のたよりもならぬ身の 聞くも甲斐なきかりがねの声》



《何を申しましても、昨日は東、今日は西、殆んど敏捷を以て稲妻と許されまする程の貞次で御座いますから、風の響きにも油断をしないで、ここかしこと隠れ歩きましたる早業に、遉(さす)が府下三千の巡査、三百の探偵共に、苦心を致しまするのみで、到頭、其年も暮れまして御座います。》(第二十八席)



《煩悩の犬は追へども去らず、菩提の鹿は招けども来らずと申してからに、何でも物事と申しまするものが、前回に伺ひましたる如く、悪い事には段々にしみ易う御座います。》(第二十二席)




*参考記事:

※山下泰平の趣味の方法:明治の稲妻強盗が嫌すぎる(2017.12.03)

https://cocolog-nifty.hatenablog.com/entry/2017/12/03/192400

 

※文春オンライン:稲妻強盗#1~#2(2023.02.19)

https://bunshun.jp/articles/-/60764