講談物およびその類書
黄薔薇:三遊亭円朝 1887年(明20)金泉堂刊。 1926年(大15)春陽堂、円朝全集 巻の七 「欧州小説・黄薔薇」(くわうしやうび/こうしょうび)と銘打っての口演速記本なのだが、当時まだ聴衆や読者には西欧の事物について見聞きしたことがない人がほとんど…
鬼神のお松:松林円玉 1899年(明32)今古堂刊。 松林円玉(しょうりん・えんぎょく、1866~1940)講釈師。明治後期に多くの口演速記本を出している。二代目松林伯円の弟子で、1889年に23歳の若さで五代目松林円玉を襲名する。のちに改名して悟道軒円玉とな…
八百屋お七恋廼緋鹿子:翁家さん馬 1893年(明24)駸々堂刊。 (こいのひがのこ)明治中期には円朝をはじめとする口演速記本が人気を呼んでいた。翁家さん馬(おきなや・さんば)も江戸時代から続く落語家の名跡で、この時期は5代目さん馬の盛期に当たる。…
幽霊の手引:高山怨縁 1917年(大6)大川屋書店、怪談百物語第6巻。 作者高山怨縁(おんえん?)については生没年を含め、まったく情報がない。大川屋書店の企画で『怪談百物語』という怪奇物のシリーズ本が大正期に出されており、この一作の他に同シリーズ…
続編『怪婦丸亀大仇討』 春帆楼白鷗 尼崎里也女:石川一口、鈴木錦泉 画 1910年(明43)積善堂刊。 1916年(大5)樋口隆文館刊。 石川一口(いっこう)は江戸時代から続く講釈師の石川派の五代目として明治後期に活躍した。生没年、本名など不詳。口演速記本…
岩見重太郎:柴田南玉 1902年(明35)求光閣刊。 1910年(明43)春陽堂、家庭お伽話第27篇所収。 岩見重太郎は怪力無双の剣客として江戸時代から講談や絵草紙で親しまれてきた人物である。明治の講談筆記本はこの本だけに限らず、多くの演者によって出されて…
夕立勘五郎:神田伯山 1929年(昭4)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第8巻所収。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第18巻所収。これは戦後再刊されたものだが、演者名は無記名となっている。ほとんどが戦前刊の三代目と同じ口調なのだが、所々…
皿屋敷:新説怪談 芳尾生 1913年(大2)『皿屋敷』と『後の皿屋敷』の全2巻、樋口隆文館刊。 有名な怪談「皿屋敷」の「いちまぁ~い、にまぁ~い」の話かと思って読みだしたが、中身はまったくホラー味のない下剋上の謀反史談だった。もともと姫路の「播州…
1902年(明35)井上一書堂刊。明治犯罪史上、大賊の「稲妻強盗・坂本慶次郎」として知られる人物は、1899年(明32)2月に逮捕され、1900年(明33)2月に処刑された。講談師春廼家朗月はその人物の氏名を高本貞次郎にもじり、枚挙にいとまがない犯行の数々の…
1898年(明31)2月~4月 雑誌「人情世界」連載 1898年(明31)11月、博盛堂刊。 錦城斎は、江戸の講談師の一龍斎系列の名跡である。ここで口演しているのは二代目錦城斎一山(いっさん)(1858-1900)で、42歳で早逝する直前になる。剣術の名人塚原卜伝ではな…
1897年(明30)9月~1898年(明31)2月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 講談速記本の形になっているが、演者の菊水舎薫(きくすいしゃ・かおる)は元々主筆の高橋翠葉(恋菊園)の門人だったのが、大阪に行って講談師の資格を取り、東京に戻ってきた…
1897年(明30)3月~8月 雑誌「人情世界」連載。松林右圓(しょうりん・うえん、1854-1919)は泥棒伯圓と称された二代目松林伯圓の弟子で、1901年に伯圓を襲名して三代目となった。この講演速記物の連載時はその直前の時期にあたる。右圓の速記本は極めて少…
1901年(明34)博多成象堂刊。明治30年前後の第一次探偵小説ブームの頃の講談速記本。これも実録をベースに講談にしたものと思われる。山崎琴書(きんしょ, 1847-1925)は明治大正期の講談師だが、積極的に探偵講談に取り組み、速記本の出版も多く、ミステリ…
(うらおもてふたつだま・すぺいんきだん) 1896年(明29)11月~1897年(明30)6月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。 邑井貞吉(むらい・ていきち, 1862-1902)は講談師の名跡を父邑井一から継承し3代目として活躍していた。円朝や涙香による西欧読…
1914年(大3)樋口隆文館刊。前後終全3篇。表題は神社の縁起由来記のように思われるが、中身は江戸時代初期の史伝上の人物、佐久間甚九郎の半生記である。作者中村兵衛は神戸又新日報の文芸部記者である傍ら、「書き講談」の口調で読みやすい多くの小説を書…
1924年(大13)武侠社刊。神田伯山の名演とされる筆記本で、当時は3巻で出されていたが、国会図書館のデジタル・コレクションには版元を改善社に変えた2巻目までしか収容されていない。講談は書かれて書物となった途端に文芸となると思う。歴史的に実在し…
1920年(大9)大川屋書店刊。八千代文庫79。江戸時代、仙台藩白石で実際にあった仇討ち話。孝子堂という史跡もある。私事ながら幼少期を過ごしたこの小都市で、見聞きしていた話の詳細をこの年齢になって初めて読んで感動した。農民の父親を武士に斬殺された…
1896年(明29)天野高之助刊。同じ版型で1902年(明35)に日本館からも出ている。江戸時代から歌舞伎や絵草紙で何度も取り上げられた話で、明治の講談筆記本でもこの邑井一(むらい・はじめ)の他、松林伯円、玉田玉秀斎、春錦亭柳楼らが競って口演した類書…
1901年(明34)滝川書店刊。松林伯知は泥棒伯円と称された名人松林伯円の弟子で、明治後半から昭和初頭まで講談師として活躍した。高座での口演の外に速記本での出版物も師匠の伯円に匹敵するほど多かった。伝統的な剣豪・合戦物から文明開化後の近代物まで…
1901年(明34)至誠堂刊。松林派の門人の一人と思われる松林小円女(しょうりん・こえんじょ)は東京出身の女流講談師だが、詳細は不明。この演目は明治の東京で実際に起きた人を陥れるための殺人事件を題材としたと思われる。小円女にはあと1作の講演本「…
1896年(明29)三誠堂刊。明治の名講談師の一人松林伯円(通称泥棒伯円)の口演筆記本。江戸寛政年間の実話に基づいた妖刀村正による斬殺事件。明治中期以降講談筆記本の流行により、「世話講談百番」などの企画で次々と出版されていた。版元の競争もあり、…
1919年(大8)立川文明堂刊。大阪の出版社、立川文明堂は明治末期から青少年向けの立川文庫(たつかわぶんこ)を発刊し、大きな人気を博した。作者名の一つ、雪化山人は講談師玉田玉秀斎とその妻子たちによるリライトの共同筆名である。猿飛佐助の名前は戦後…
1912年(明45)矢島誠進堂刊。明治期の探偵実話を題材とした講談筆記本。前後続の全3巻。演者の太年社燕楽(たねんしゃ・えんらく)は大阪の講談師の長老格で本名は伊藤伊之助、それ以上の情報はほとんど不明。筆記本はあまり出ていないが、弁舌巧みで多少…
1885年(明18)速記法研究会刊、8分冊。 1991年(明24)上田屋刊。「黄金の罪」(こがねのつみ) 1927年(昭2)春陽堂刊、円朝全集巻の九。 明治中期になって、坪内逍遥の「当世書生気質」や円朝の速記本などによって言文一致体への動きとともに文学の充実…
1911年(明44)松本金華堂刊。正続2巻。口演の平林黒猿(ひらばやし・こくえん)も明治後期に活躍した講談師の一人と思われるが、情報はほとんど出てこない。この作品も剣豪・仇討物の一つで、続篇に「仙台義勇の仇討」とあり、仙台城下にて仇討が遂げられ…
1910年(明43)中川玉成堂刊。四国徳島に伝わる狸合戦の話を神田伯龍が講談の形で演じたものの筆記本である。江戸時代までは狐狸と人間との化かし合いなどが多く語られていたが、狸の二大勢力の合戦を擬人的に描写し、細かに記録した物は極めて珍しい。主人…
1909年(明42)中川玉成堂刊。江戸時代の絵草紙や歌舞伎の錦絵で見知っていた妖術使いの主人公。実際どのような物語の持ち主なのかは知らないでいた。神田伯龍による講談筆記本。戦国時代の戦いで死んだ武将の遺児ではあるものの、御家再興の必命があるわけ…
1890年(明23)金槇堂刊。「泥棒伯圓」という仇名を持つ講談師松林伯円(しょうりん・はくえん)による口演速記本。(まつばやし)と表記している場合もある。明治20年以降に定着する言文一致体を後押ししたのが、円朝や伯円の速記本だった。江戸中期の享…
1891年(明24)三友舎刊。2年後の1893年(明26)に書名のみ「恩と情」に差し替えて中村鐘美堂から刊行されている。本文・挿絵ともに同一物。 明治期の東京の落語界には二大流派、三遊亭円朝を初めとする三游派とこの麗々亭柳橋(れいれいてい・りゅうきょう…
(しんけい・かさねがふち)1888年(明21)井上勝五郎刊。三遊亭円朝の代表作の一つ。円朝は明治の早い時期から口演速記本を出しており、古風な漢文調から現代的な言文一致体に切り替わるお手本となった。古くから「怪談累ヶ淵」の話はあったのだが、円朝は…