明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

講談物およびその類書

『岩見重太郎』 柴田南玉

岩見重太郎:柴田南玉 1902年(明35)求光閣刊。 1910年(明43)春陽堂、家庭お伽話第27篇所収。 岩見重太郎は怪力無双の剣客として江戸時代から講談や絵草紙で親しまれてきた人物である。明治の講談筆記本はこの本だけに限らず、多くの演者によって出されて…

『夕立勘五郎』 神田伯山

夕立勘五郎:神田伯山 1929年(昭4)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第8巻所収。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第18巻所収。これは戦後再刊されたものだが、演者名は無記名となっている。ほとんどが戦前刊の三代目と同じ口調なのだが、所々…

『皿屋敷:新説怪談』 芳尾生

皿屋敷:新説怪談 芳尾生 1913年(大2)『皿屋敷』と『後の皿屋敷』の全2巻、樋口隆文館刊。 有名な怪談「皿屋敷」の「いちまぁ~い、にまぁ~い」の話かと思って読みだしたが、中身はまったくホラー味のない下剋上の謀反史談だった。もともと姫路の「播州…

『稲妻小僧貞次:探偵講談』 春廼家朗月

1902年(明35)井上一書堂刊。明治犯罪史上、大賊の「稲妻強盗・坂本慶次郎」として知られる人物は、1899年(明32)2月に逮捕され、1900年(明33)2月に処刑された。講談師春廼家朗月はその人物の氏名を高本貞次郎にもじり、枚挙にいとまがない犯行の数々の…

『塚原卜伝二代の誉』 錦城斎一山

1898年(明31)2月~4月 雑誌「人情世界」連載 1898年(明31)11月、博盛堂刊。 錦城斎は、江戸の講談師の一龍斎系列の名跡である。ここで口演しているのは二代目錦城斎一山(いっさん)(1858-1900)で、42歳で早逝する直前になる。剣術の名人塚原卜伝ではな…

『お嬢おきぬ首塚』 菊水舎 薫

1897年(明30)9月~1898年(明31)2月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 講談速記本の形になっているが、演者の菊水舎薫(きくすいしゃ・かおる)は元々主筆の高橋翠葉(恋菊園)の門人だったのが、大阪に行って講談師の資格を取り、東京に戻ってきた…

『烈女富士子』 松林右圓

1897年(明30)3月~8月 雑誌「人情世界」連載。松林右圓(しょうりん・うえん、1854-1919)は泥棒伯圓と称された二代目松林伯圓の弟子で、1901年に伯圓を襲名して三代目となった。この講演速記物の連載時はその直前の時期にあたる。右圓の速記本は極めて少…

『血染の片腕:探偵講談』 山崎琴書

1901年(明34)博多成象堂刊。明治30年前後の第一次探偵小説ブームの頃の講談速記本。これも実録をベースに講談にしたものと思われる。山崎琴書(きんしょ, 1847-1925)は明治大正期の講談師だが、積極的に探偵講談に取り組み、速記本の出版も多く、ミステリ…

『善悪二箇玉:西国奇談』 邑井貞吉

(うらおもてふたつだま・すぺいんきだん) 1896年(明29)11月~1897年(明30)6月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。 邑井貞吉(むらい・ていきち, 1862-1902)は講談師の名跡を父邑井一から継承し3代目として活躍していた。円朝や涙香による西欧読…

『史蹟甚九郎稲荷』 中村兵衛

1914年(大3)樋口隆文館刊。前後終全3篇。表題は神社の縁起由来記のように思われるが、中身は江戸時代初期の史伝上の人物、佐久間甚九郎の半生記である。作者中村兵衛は神戸又新日報の文芸部記者である傍ら、「書き講談」の口調で読みやすい多くの小説を書…

『清水次郎長』 神田伯山

1924年(大13)武侠社刊。神田伯山の名演とされる筆記本で、当時は3巻で出されていたが、国会図書館のデジタル・コレクションには版元を改善社に変えた2巻目までしか収容されていない。講談は書かれて書物となった途端に文芸となると思う。歴史的に実在し…

『白石噺・孝女の仇討』 青龍斎貞峰

1920年(大9)大川屋書店刊。八千代文庫79。江戸時代、仙台藩白石で実際にあった仇討ち話。孝子堂という史跡もある。私事ながら幼少期を過ごしたこの小都市で、見聞きしていた話の詳細をこの年齢になって初めて読んで感動した。農民の父親を武士に斬殺された…

『大岡政談お富与三郎』 邑井一

1896年(明29)天野高之助刊。同じ版型で1902年(明35)に日本館からも出ている。江戸時代から歌舞伎や絵草紙で何度も取り上げられた話で、明治の講談筆記本でもこの邑井一(むらい・はじめ)の他、松林伯円、玉田玉秀斎、春錦亭柳楼らが競って口演した類書…

『怪談美人の油絵』 松林伯知

1901年(明34)滝川書店刊。松林伯知は泥棒伯円と称された名人松林伯円の弟子で、明治後半から昭和初頭まで講談師として活躍した。高座での口演の外に速記本での出版物も師匠の伯円に匹敵するほど多かった。伝統的な剣豪・合戦物から文明開化後の近代物まで…

『銀行頭取謀殺事件』 松林小円女 

1901年(明34)至誠堂刊。松林派の門人の一人と思われる松林小円女(しょうりん・こえんじょ)は東京出身の女流講談師だが、詳細は不明。この演目は明治の東京で実際に起きた人を陥れるための殺人事件を題材としたと思われる。小円女にはあと1作の講演本「…

『品川八人斬』 松林伯円

1896年(明29)三誠堂刊。明治の名講談師の一人松林伯円(通称泥棒伯円)の口演筆記本。江戸寛政年間の実話に基づいた妖刀村正による斬殺事件。明治中期以降講談筆記本の流行により、「世話講談百番」などの企画で次々と出版されていた。版元の競争もあり、…

『猿飛佐助:真田郎党忍術名人』 雪化山人

1919年(大8)立川文明堂刊。大阪の出版社、立川文明堂は明治末期から青少年向けの立川文庫(たつかわぶんこ)を発刊し、大きな人気を博した。作者名の一つ、雪化山人は講談師玉田玉秀斎とその妻子たちによるリライトの共同筆名である。猿飛佐助の名前は戦後…

『恋と情:探偵実話』 太年社燕楽

1912年(明45)矢島誠進堂刊。明治期の探偵実話を題材とした講談筆記本。前後続の全3巻。演者の太年社燕楽(たねんしゃ・えんらく)は大阪の講談師の長老格で本名は伊藤伊之助、それ以上の情報はほとんど不明。筆記本はあまり出ていないが、弁舌巧みで多少…

『英国孝子ジョージスミス之傳』 三遊亭円朝

1885年(明18)速記法研究会刊、8分冊。 1991年(明24)上田屋刊。「黄金の罪」(こがねのつみ) 1927年(昭2)春陽堂刊、円朝全集巻の九。 明治中期になって、坪内逍遥の「当世書生気質」や円朝の速記本などによって言文一致体への動きとともに文学の充実…

『笠井松太郎:義勇仇討』 平林黒猿

1911年(明44)松本金華堂刊。正続2巻。口演の平林黒猿(ひらばやし・こくえん)も明治後期に活躍した講談師の一人と思われるが、情報はほとんど出てこない。この作品も剣豪・仇討物の一つで、続篇に「仙台義勇の仇討」とあり、仙台城下にて仇討が遂げられ…

『実説古狸合戦:四国奇談』 神田伯龍

1910年(明43)中川玉成堂刊。四国徳島に伝わる狸合戦の話を神田伯龍が講談の形で演じたものの筆記本である。江戸時代までは狐狸と人間との化かし合いなどが多く語られていたが、狸の二大勢力の合戦を擬人的に描写し、細かに記録した物は極めて珍しい。主人…

『豪傑児雷也』 神田伯龍

1909年(明42)中川玉成堂刊。江戸時代の絵草紙や歌舞伎の錦絵で見知っていた妖術使いの主人公。実際どのような物語の持ち主なのかは知らないでいた。神田伯龍による講談筆記本。戦国時代の戦いで死んだ武将の遺児ではあるものの、御家再興の必命があるわけ…

『雲霧』 松林伯円

1890年(明23)金槇堂刊。「泥棒伯圓」という仇名を持つ講談師松林伯円(しょうりん・はくえん)による口演速記本。(まつばやし)と表記している場合もある。明治20年以降に定着する言文一致体を後押ししたのが、円朝や伯円の速記本だった。江戸中期の享…

『正直安兵衛観音経』 麗々亭柳橋

1891年(明24)三友舎刊。2年後の1893年(明26)に書名のみ「恩と情」に差し替えて中村鐘美堂から刊行されている。本文・挿絵ともに同一物。 明治期の東京の落語界には二大流派、三遊亭円朝を初めとする三游派とこの麗々亭柳橋(れいれいてい・りゅうきょう…

『真景累ヶ淵』 三遊亭円朝

(しんけい・かさねがふち)1888年(明21)井上勝五郎刊。三遊亭円朝の代表作の一つ。円朝は明治の早い時期から口演速記本を出しており、古風な漢文調から現代的な言文一致体に切り替わるお手本となった。古くから「怪談累ヶ淵」の話はあったのだが、円朝は…

『流の白滝:毒殺事件』 橘屋円喬

(ながれのしらたき)1893年(明26)日吉堂刊。橘屋円喬(たちばなや・えんきょう)は明治の落語家で、三遊亭円朝の弟子にあたる。語り口の名人ぶりは円朝に比肩するほどだったというが、速記本としてはこの一作しかデジタル・コレクションには見当たらない…

『怪談山王之古猫』 松林伯知

1902年(明35)三新堂刊。泥棒伯圓の弟子の一人、松林伯知(しょうりん・はくち)の講談速記本。山王とは現在の都心にある山王日枝神社で、江戸時代は氏神として祀られていた。付近に越後村上藩の内藤氏の屋敷があった。ある時この地で怪猫に惨殺される事件…

『荒木又右衛門:日本武士道之権化』玉田玉秀斎

1910年(明43)立川文明堂刊。大阪の版元、立川文明堂(たつかわ)は講談を青少年向けに書き下ろした「立川文庫」を明治末期から大正時代に200点ほど発行して一世を風靡した。その題材の源泉は玉田玉秀斎(3代目)が抱えていた。彼は関西で活躍した代表…

『姐妃のお百』 桃川如燕

(だっきのおひゃく)1997年(明30)金桜堂刊。前後2巻。初代桃川如燕(じょえん)の口演を速記した講談本。1月から断続的に2カ月かけて通読した。姐妃(だっき)とは古代中国の殷王朝の王妃の姐己といい、その容色で王朝を滅亡させたと言われる人物。江…

『怪談檮衣声』 香川倫三(宝州)

1889年(明22)駸々堂刊。作者の香川宝州は生没年など不詳。別に遠塵舎とも号した講談師だったが、これは口演の速記本ではなく、自前で書き下ろした作品ということになる。題名の「檮衣声」(とおきぬた)は唐の詩人李白の「子夜呉歌」にある《萬戸檮衣声》…