明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『不知火奉行』 横溝正史

1956年(昭31)6月~8月、雑誌「小説倶楽部」連載。

1957年(昭32)同光社出版刊(新作・大衆文学全集)。

 

 横溝の時代物の一冊。表題作は雑誌掲載時に「江戸のルパン」と副題が付いていた。黒頭巾の謎の浪人が「不知火」という名前で参上するが、その正体が旗本の嫡男の若隠居であるのは見え見えで、作者も隠そうとしない。しかし江戸の金座の利権を巡る殺傷事件にわざわざ覆面姿に変えて出てくる必要性はないように思えた。

併載の中編「どくろ検校」は、長崎の離島から始まる妖怪変化の幻夢譚で、そのおどろおどろした異様な光景に目を奪われこそすれ、何の脈絡も解明もなされないままに次の現象が現れる。横溝流の耽美的で絵画的な描写は見事だが、物語としての構成は弱いと思えた。☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用

https://dl.ndl.go.jp/pid/1790616/1/36

https://dl.ndl.go.jp/pid/1666905

雑誌連載の挿絵は木俣清史。

 

 

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