2012年(平24)二玄社刊。《謎解き浮世絵叢書》の一冊。
幕末の北斎や広重の大人気のあと、明治維新以降の日本の風景画(版画)については、せいぜい文明開化の様子を描いた錦絵ぐらいしか記憶していない。
偶然にもNDLイメージバンクの中から『小林清親の光線画』
という記事を見つけて、その光線画という木版画での斬新な表現に目を見張らされた。その関連図書として上記の本を読むことになった。
小林清親(1847~1915)は幕府の下級役の侍の家で育ち、戊辰戦争にも関わったが、明治維新で失職したため得意の絵筆で生計を立て直す決心をした。西欧の画法に影響を受けた「東京名所図」(明治9、1876~)のシリーズを「光線画」という(恐らく版元の)謳い文句で次々と売り出された。たしかに光と闇の対比が目立ち、人物や事物に輪郭がなく、特に錦絵と比較しても建物の細部の装飾の不明確さがむしろ西洋の水彩画のような雰囲気を与えてくれる。思ってみれば、この1870~1880年代は、フランスでは、印象派の画家たちが毀誉褒貶の荒波を乗り越えて、その表現主張が勝利を収めて行く時期であり、ほぼ同時代的な動きとして重なっているのだ。
もちろん「名所図絵」だから白昼の風景も描かれているのだが、特に目立つのは夜景、それも電燈が明るく照らすことなどのなかった当時の夜の闇の暗さをありのままに写生して、画面の刷りも真っ黒という絵も少なくない。これも思い切ったリアリズム表現ではないかと思った。また雪景には別の味わいが感じられた。☆☆☆
《それらには風景を写した季節と時刻を示す言葉が書き添えられており、季節や時刻によって景色が違って見えることに対する清親の意識とこだわりが感じられます。》
《清親は光のうつろいや水の動きといった、形をもたないものを描くために、『東京名所図』では線よりも面を主役にしました。それによって輪郭線が消え去るという画期的な表現が誕生したのです。》
《これらは光や影を意識し、輪郭線でかたどらずにかたちをあらわす、という表現方法・・・》
※NDLで閲覧できる資料(会員登録要):
1)清親画帖
2)清親画伝
3)小林清親展 : 光と影の浮世絵師 (1982)
※※いつもお世話になっている「みずすまし亭通信」にも小林清親とその弟子井上安治の記事がしばしば掲載されている。
井上安治「両国煙火図」