明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『有馬猫騒動』 伊東陵潮

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1899年(明32)盛陽堂刊。講談師・伊東陵潮(りょうちょう)の口演を速記したいわゆる講談本。上下2巻で読み応えがあった。所謂化け猫の怪談話の一つである。九州久留米藩の有馬氏の江戸屋敷で、狂犬に追われた猫を助けた腰元お滝が当主の側室に召し上げられると、古株の侍女たちがそれを妬み、陰湿なイジメでいびる。耐えかねたお滝は自害するが、その侍女たちも化け猫に殺される。最後は有馬氏のお抱え力士の小野川が命を懸けて退治する。本題の途中から当時の相撲取の世界に大きく脱線してしまい、しばらく角力銘々伝のような話が続くが、火消しをめぐる江戸っ子の心意気などの逸話も面白い。売り言葉に買い言葉の通り、面汚しに対しては生死を賭けて真剣に対峙した態度には感慨深さを覚えた。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。表紙絵と挿絵は豊川秀静(しゅうせい)生没年不詳。

dl.ndl.go.jp

※浮世絵文献資料館:豊川秀静

http://www.ne.jp/asahi/kato/yoshio/aiueo-zenesi/si-zenesi/syuusei-toyokawa.html



※参考文献引用:

《常に文化の屋台骨を支える大多数の庶民は何を余暇の友とし、何に精神御安らぎを求めるのか。難解で、昔も今も恐らく将来も決して多くの読者を獲得し得ないであろう書物を、恰も崇高な文化遺産のように、その真価もおぼつかないままに無闇に有難がってはいないか。》

「講談本の研究について」(2000.10) ©中込重明

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3051450



 

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