1902年(明35)三新堂刊。泥棒伯圓の弟子の一人、松林伯知(しょうりん・はくち)の講談速記本。山王とは現在の都心にある山王日枝神社で、江戸時代は氏神として祀られていた。付近に越後村上藩の内藤氏の屋敷があった。ある時この地で怪猫に惨殺される事件が起き、家老の御曹司島田與三郎がそれを退治して名を上げた。奥女中のお千代は美人ながらも思いを募らせ、恋文を下男に託すが、それが不良侍の長田又十郎の手中に落ち、なりすましの文通が始まる。これだけでも十分な恋騒動話になるが、怪猫の復讐心が内藤の家来たちの上に襲いかかる。猫嫌いな副主人公でもある腹黒い又十郎の方がむしろ祟られるというのも可笑しい。後半は房総半島から三浦半島まで猫の怨念がつきまとう。往時の観光案内のようにも読めた。松林伯知は猫好きで「猫游軒」(びょうゆうけん)とも号していた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵作者は不詳。
《 猫だ人間だといっても同じ世界に沸(わい)た生物(いきもの)。私くしは能く知りませんが、此の間だ寺の和尚の説教に、人間は死にかわり生き変り、親となり子となるもの、決して人だから人に生れるといふ訳ではございません。(---)況(ま)して人間は人下の者を見れば我が子と思ひ、年上の者を見れば親と思ひ、決して悪事はしないといふことでございます。何うか貴下(あなた)も強(ひど)ひことはしない方がよふございます。》(第四席)
※参考ブログ
またしちのブログ:松林伯知(1)
https://ameblo.jp/matasichi/entry-12580937972.html