(ひとのうらみ)1915年(大4)樋口隆文館刊。前後終篇全3巻。作者(ゆきとも・りふう)は劇作家としても知られたが、この作品は「書き講談」のスタイルで語り口はなめらか、テンポも快い。江戸歌舞伎の花形、初代および二代目市川団十郎の芸道の事績と生きざまを中心に当時の人間模様を描いたもの。特に江戸時代における歌舞伎の興行の人気や慣習が詳細に描かれている。
3巻のうちの真ん中の後篇はデジタル・データとしては欠落しているが、中抜きで読んでも読み応えがあった。特に終篇は凄惨な怪談話が続き、「団十郎猫」と称される怪猫の因縁話は現代では言及されることが少なく、貴重な物語だった。☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は歌川珖舟。猫の絵がすごく気を惹く。