1934年(昭9)岡倉書房刊。
平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知られている。
彼の文体は平静沈着な語り口で、まるで手を取って導かれるような快適さが感じられる。ここでは怪談話12篇に雑話1つを編んだ一冊で、埋没させておくのはもったいないと評価する筋から、近年ウェッジ文庫として再刊されていた。毎晩一話ずつ読むという楽しみにもなった。最近のホラー物とは大違いで、奇怪な事象を抑制した畏怖心をもって語るスタイルに大人の味わいがあった。「鈴鹿峠」は彼の「血風呂」でも出てくる馴染みの地名である。また「空き家の怪」の題材も当時の生活風景が偲ばれて興味深かった。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1215489
《如何に死を決心しても、愈々(いよいよ)といふ土壇場に坐ると、死にたくないといふ心がひしひしと身に迫って来るといふ事は平生人の話に聞いてゐました。話にばかり聞いてゐる時は、それは決心が足りないからだと思ひつめて居りました。併し、今自分が其場に当って見ると、全くその通りだといふ事がしみじみ感じられます。》(大島怪談)
『血風呂』 平山蘆江