明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『悪人手形帳』 松居松葉

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1919年(大8)玄文社刊。一言で言えば「仙台の半七捕物帳」。作者の松居松葉(まつい・しょうよう)は本来劇作家だが、洋行して英仏独の語学にも長け、翻訳にも取り組み、小説も書いた。ほぼ同年代の岡本綺堂が同じ劇作家ながら書いた「半七」の成功に刺激を受け、自身の出身地である仙台を舞台に、維新後の明治の時代設定で書いた。元同心の探索係(刑事)水沢老人の事件簿を若い作家が時折訪ねて話を聞くという骨組みは「半七」に通じる。文体も描写も劇作家のためかよく練れており、綺堂に匹敵する。各事件のトリックは西欧の推理小説から真似ており(ルパン物の尾行劇なども)、概ね正直にそのソースを紹介している。後半は読唇術を身につけたその実娘みね子の素人探偵譚になるが、行動に制約がありながらも楽しめる。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

dl.ndl.go.jp

この本には口絵はまったく付いていない。大正期になると書籍への木版口絵添付は廃れていった。参考として川瀬巴水の「仙台評定河原 」の木版画を掲載した。私個人的には故郷の仙台の広瀬川の川魚漁の風景だが、松葉の上記の一篇中の目撃者の話に似たような風景が出てくる。

 

*参考サイト:川瀬巴水と仙台山の寺:島柊二の気が向いたら歴史夢想

https://shima-syuji.com/2015/11/15/post-434/

 

 

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