明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『鴛鴦奇観』 菊亭静

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(えんおう=オシドリ)1887年(明20)高崎書房刊。ボッカチオの「デカメロン」中の一話を菊亭静(きくてい・しずか)が翻案、訳述したもの。西洋文学の翻訳としては維新後早い方に当たる。飛びぬけた美女が裕福だがとてつもなく醜い男とやむを得ず結婚している。彼女はある時教会で美青年を見染め、不道徳とは知りながら何とか密通したいと望み、夫を騙し、教会の僧正を利用してあの手この手と・・・。出版当時はボッカス作と表記されていたが、これは仏語訳本からの重訳だったためで、元々1頁足らずの話を菊亭が手を加えて中篇に仕立てた。ただし彼の場合は現地の地名と人名をそのまま使ったので、本来の翻訳の姿に近づけている。この話の教訓は、美女たる者はできるだけ多くの男たちを魅了しなければ、その美貌が立ち腐れになると恐れ、彼らを焦らした末に気に入った美男子と結ばれたいとしか人生を考えていないのか?を問うところにある。まだ言文一致体の前の堅苦しい漢文調だが、ネタがネタだけに読み進ませる。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は尾形月耕だが、近代物や西洋物は極めて少ないと言われているのを見ると、この数点の挿絵は稀少なものに思われる。

dl.ndl.go.jp

 

※「原文僅(わづか)に一葉だにも過(すぎ)ず、余(よ)翻案修述して一編の小説となしぬ。(---) 婦人の愛読を期する由、書肆の依頼あるにより勉めて俗談平話を旨とし(---)」(緒言より)



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