明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『仏蘭西物語』 清風草堂主人(宮田暢)訳

 

1911年(明44)万里洞刊。明治41年に創刊の日本初の週刊誌「サンデー」に連載されたフランスの中短編の翻訳を3つまとめて単行本で出した。最初の『恋の仇討』は軽妙な作風で当時人気のあったポール・ド・コック(Paul de Kock, 1793-1871) の中篇(原題名不詳)。決して美人とは言えないが、スタイル抜群の若い女性をめぐって、周囲の住人の男どもがこぞって口説こうと奔走するが・・・という話で、作者の巧みな話術に引き込まれる。また訳文もよく練れている。訳者の清風草堂主人は、後年ルパン物の『ユダヤのランプ』(「土曜日の夜」)を訳出するが、奥付に本名・宮田暢の記載がある。彼は「サンデー」誌の記者であった。他に劇作家アレヴィ(Ludvic Halévy)の『新聞記者の内幕』と作者不詳の『跛の幽霊』を所収。☆☆☆

 

《独りサンデー誌上に翻訳小説を掲ぐ清風草堂主人は取材の広くして面白き、筆路の暢達にして趣味ある、実に当今翻訳小説界のオーソリチーである。》(二六新報)

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は作者不詳。

dl.ndl.go.jp

 

《白の薄い肌着がむっちりした乳のあたりに喰ひ込んで、少し俯向(うつむ)き加減になった顔は、仕事労(づか)れで、ポーツと上気して、ほんのりと染まり、前髪が白い額に垂れていた。》(一〇高等ロハ紳士)



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