明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『ダルタニャン色ざんげ』  クルティル・ド・サンドラス 小西茂也・訳

ダルタニャン色ざんげ:小西茂也

1950年(昭25)河出書房刊。

1955年(昭30)河出書房、河出新書32

 

作者のガティアン・ド・クルティル・ド・サンドラス(Gatien de Courtilz de Sandras, 1644~1712)は、ブルボン王朝時代のフランスの軍人であり、文筆家であった。この作品は『三銃士』の種本となったことをアレクサンドル・デュマもその序文で明言しているが、その種本の中にすでにアトス、ポルトス、アラミスが登場していたのを知って現実味のある懐かしさを感じた。しかし三人の性格の違いや個性を彫り上げたのはやはりデュマの文才だったのがわかる。サンドラスは「ダルタニャンの回想録」としてこれを書いたのだが、ダルタニャンも歴史上実在した人物であり、その人にあやかって事績を回想録風にまとめたもので、まだ小説的な面白さまでには至っていない。しかしその時代の歴史的な事件や男女間の艶事の機微などをはじめ、風俗や物の見方に触れることができたのは興味深かった。☆☆☆

 

訳者の小西茂也(1909~1955)はバルザックの『風流滑稽譚』やブラントーム『艶婦伝』などの翻訳者として知られたが、胃潰瘍で46歳で早世したのは惜しまれる。

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1692868

 

ダルタニャン色ざんげ:小西茂也2

《国王不断の御気性として、渋面をお示しになるには、何かそれだけの理由あることに違いなかった。いったいお顔つきやお言葉に、これほど率直な国王は嘗てなかったと申してよい。世の政治家がいうように、統治するには隠蔽をわきまえることが先ず第一に必要であるとしたら、わが国王ほどそれに不適当な王侯はないといってもよろしかろう。》(最初の決闘)

 

《お手紙のなかで、貴方に尊敬の念を抱いていると申上げましたが、現に今もなお、而も第三者のおられる前で、妾は敢てそう申上げます。けれど尊敬いたしておるからといって、体面もあり淑徳もわきまえている女性にそぐわぬような振舞を、いたすものではないことを、御承知おき下さい。妾はあくまでそうした女性でありたいと思います。もし貴方が美しい情熱をお持ちになることの出来るお方でしたら、妾は貴方様にこの心を捧げますから、もっとよく妾をお知り遊ばした暁に、よく御玩味になれますでしょう。でもあなたがそうした情熱を抱き続けることが出来ぬお方でしたら、妾達はこれ以上長く御交際いたすのも、無益と存じますわ。》(結婚と最後の恋)

 

 

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