1913年(大2)『皿屋敷』と『後の皿屋敷』の全2巻、樋口隆文館刊。
有名な怪談「皿屋敷」の「いちまぁ~い、にまぁ~い」の話かと思って読みだしたが、中身はまったくホラー味のない下剋上の謀反史談だった。もともと姫路の「播州皿屋敷」と江戸の「番町皿屋敷」があるのだが、前者のほうがルーツになっているらしい。
姫路城主の小寺伊勢守を弑逆して乗っ取りを企む青山鉄山一派の動静を探るため、忠臣の衣笠元信は侍女のお菊を間諜として送り込む。お菊は青山の息子から求婚され、家臣からも言い寄られるのを巧みに利用しながら機密を探り出す。家宝の皿十枚についてはお菊を妬む別の侍女の計略であり、お菊は折檻のうえ殺害されるが、怪談話は起こらない。お菊の情報で一味は排除される。
後日談の『後の~』は青山の遺児の美男美女が再度の転覆劇を企てる話で、主客逆転に立場を変えて描くという、視点変動の面白味があった。作者の芳尾生については、これを連載した神戸又新(ゆうしん)日報の記者作家である以外に情報はない。侍同士の芝居がかった口調に硬さは感じるが、怪談話を別物の史談に書き換えた筆力はしっかりしていた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/909861
https://dl.ndl.go.jp/pid/909491
口絵は歌川国松。
*参考サイト:兵庫県立歴史博物館
ひょうご伝説紀行:『播州皿屋敷』を訪ねて
『播州皿屋敷』を訪ねて | 兵庫県立歴史博物館:兵庫県教育委員会