明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

戦後昭和期

『魔子恐るべし』(上) 宮本幹也

魔子恐るべし(上):宮本幹也 1953年(昭28)6月~1954年(昭29)7月、「東京タイムズ」連載。 1954年(昭29)桃園書房刊。 魔子恐るべし(上):宮本幹也2 八ヶ岳に住むサンカ(山窩)の族長の娘魔子が列車で終戦直後の東京に出てくる。サンカ(山窩)とは…

『悪魔を買った令嬢』 川口松太郎

悪魔を買った令嬢:川口松太郎 1949年(昭24)日比谷出版社刊。 1949年(昭24)1月~12月 雑誌「スタイル」連載。 川口松太郎の現代小説の一作。彼は通俗小説の大家と呼ばれたが、小説というものが「何かを物語るもの」という本質を有するかぎり、快筆をふる…

『踊子殺人事件』 武田武彦

踊子殺人事件:武田武彦 1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。 武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文…

『慶安水滸伝』 村上元三

慶安水滸伝(上巻):村上元三 1953年(昭28)1月~10月、時事新報、大阪新聞で連載。 1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、上下2巻。 江戸初期の由井正雪の乱を記した史書「慶安太平記」は後世に講談や歌舞伎、絵草紙などに形を変えて取り上げられていた…

『その名は女』 大林清

その名は女:大林清 1955年(昭30)1月~7月、中部日本新聞、西日本新聞に連載。 1955年(昭30)大日本雄弁会講談社刊。(ロマンブックス) タイトルの由来は、シェークスピアの「ハムレット」中のセリフ「弱き者よ、汝の名は女なり」だと思われる。事業の失…

『君は花の如く』 藤沢桓夫

君は花の如く:藤沢桓夫 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)東京タイムス紙連載。 1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。 1962年(昭37)東方社刊。 大阪の化粧品会社で働くヒロインの朝代には暗い過去があった。東京で男に翻弄される生活を断ち切るために単…

『浮雲日記』 富田常雄

浮雲日記:富田常雄 1952年(昭27)湊書房刊。 1955年(昭30)東方社刊。 明治中期の自由民権運動から日清戦争に向けて、まだ日本の近代化が形を成すに至らない時代の青春群像を描いている。武芸全般を修めた主人公の春信介は、身体一つで上京するが、すぐに…

『不連続殺人事件』 坂口安吾

不連続殺人事件:坂口安吾、高野三三男(画) 1947年(昭22)初秋号~1948年(昭23)7月号、雑誌「日本小説」連載 1956年(昭31)河出書房、探偵小説名作全集 第9巻所収 不連続殺人事件:坂口安吾1 終戦直後に創刊された雑誌「日本小説」に連載された坂口安…

『君失うことなかれ』 富田常雄

君失うことなかれ:富田常雄 1953年(昭28)東方社刊。 1958年(昭33)東京文芸社、富田常雄選集第8巻所収。 タイトルの「失ってほしくない」と願うのは、女性の心と身体の両方の処女性と言えるものを指していると思われる。ここでも終戦直後の東京郊外の世…

『白猫別荘』 北村小松

白猫別荘:北村小松 1948年(昭23)新太陽社九州支社刊。 怪奇小説集と銘打った短編集全9篇を収める。終戦直後の刊行で版組や用紙が粗悪のため、印字も不鮮明で読みにくい。怪奇趣味というよりも、人間心理の奥底にある不可解なものを完全には否定も肯定も…

『花ふたたび』 阿木翁助

花ふたたび:阿木翁助 1956年(昭31)桃源社刊。 阿木翁助(1912~2002) は戦後昭和期のラジオ・テレビの脚本家として知られた。あとがきによると、この作品は連続ラジオ・ドラマとして全国21局で昭和30年6月から約1年半、433回にわたって放送され…

『詩と暗号』 木々高太郎

詩と暗号:木々高太郎、東郷青児 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の雑誌「モダン日本」に連載されたという連続探偵小説と銘打った8篇からなる。何らかの理由から医師としてではなく、理科系の教師として信州と思われる田舎町の高等女学校の教師として…

『女学生』 藤沢桓夫

女学生:藤沢桓夫(たけお) 1947年(昭22)新太陽社刊。 終戦直後の大阪の寄宿舎のあるミッションスクールが舞台となっている。夜の庭園を散歩していたヒロインの目の前に青年が塀を乗り越えて入って来た。アルセーヌ・ルパンまがいだと思って黙って見てい…

『運命の車』 山田風太郎

運命の車:山田風太郎 1959年(昭34)桃源社刊。 明治時代の歴史的事件の中に、訪日中のロシア皇太子が警察官に刀で切りつけられるという大津事件があった。その犯人を真っ先に取り押さえたのは一行を乗せていた人力車の車夫の二人だった。事件後、彼らは日…

『稲妻左近捕物帖』 九鬼紫郎(九鬼澹)

稲妻左近捕物帖:九鬼紫郎 1952年(昭27)同光社出版刊。 1950年(昭25)4月および12月、雑誌「富士」に2篇掲載。 探偵雑誌「ぷろふいる」の編集長を長年務めた九鬼紫郎が九鬼澹(たん)の名義で発表した南町奉行所同心の稲妻左近の活躍する捕物帖10篇を…

『唐人お吉』 井上友一郎

唐人お吉:井上友一郎 1949年(昭24)11月~1950年(昭25)雑誌「改造文藝」連載。 1952年(昭27)講談社刊。講談社評判小説全集 第10巻所収。 唐人お吉:井上友一郎2 幕末の動乱期に、下田に開設された米国総領事ハリスのもとに妾として通った唐人お吉の…

『生首美人』 フォルチュネ・デュ・ボアゴベ、水谷準・訳述

生首美人:ボアゴベ 1949年(昭24)1月、雑誌「苦楽」に掲載。 水谷準は戦前から戦中期にかけて長らく雑誌「新青年」の編集長として名を知られたが、探偵作家としても活躍するとともに仏文科の語学力を生かして、フランス物の推理小説の翻訳も多く手掛けた。…

『宮本洋子』 里見弴

宮本洋子:里見弴 1947年(昭22)苦楽社刊。 日中戦争の激化してきた昭和14年から終戦に至るまでのいわゆる戦中期を過ごしたヒロイン宮本洋子の生活と心情の移り変わりを描く。一流の音楽家同士で結婚したが、夫は召集後間もなく戦死する。その直前までの宮…

『新編 捕物そばや』 村上元三

捕物そばや:村上元三 1955年(昭25)6月~1956年(昭26)5月、雑誌「読切倶楽部」に連載。過去に別の雑誌に掲載されたものの再掲載を含め計12篇。 村上元三が生み出した捕物帳の主人公 加田三七のシリーズは作者自身も愛着があったようで、終戦直後に書き…

『江戸っ子八軒長屋』 林二九太

江戸っ子八軒長屋:林二九太 1956年(昭31)桃源社刊。 1955年(昭30)7月~12月、雑誌「読切俱楽部」連載。 林二九太(はやし・にくた、1896~ ? ) は当初劇作家として活躍したが、戦中から戦後期にかけてはユーモア作家として多くの作品を残した。この作品…

『鞍馬天狗:新東京絵図』 大佛次郎

鞍馬天狗・新東京絵図:大佛次郎 1947年(昭22)1月~1948年(昭23)5月 雑誌「苦楽」連載。 1948年(昭23)大日本雄弁会講談社刊。 倒幕が成就し、明治維新となった直後の鞍馬天狗の後日譚。江戸は東京と改称され、徳川家は駿府に移り、旗本・御家人の多く…

『キリストの石』 九鬼紫郎

キリストの石:九鬼紫郎 1960年(昭35)日本週報社刊。 1963年(昭38)新流社刊。「女と検事」に改題。 タイトルは新約聖書の話から来ている。罪を冒した女を石打ちの刑にしようとする所で、キリストが、自身に罪を持たない人間だけがそれを行なえるのだと諭…

『白蘭紅蘭』 藤沢桓夫

白蘭紅蘭:藤沢桓夫 1952年(昭27)湊書房刊。 1950年(昭25)9月~1951年(昭26)12月、雑誌「婦人生活」連載。 独身で吝嗇家の叔父が多額の財産を残して死去した。平凡なサラリーマンの青年は相続人となったが、ある見知らぬ女性との結婚が前提条件とされ…

『青い樹氷』 大庭さち子

青い樹氷:大庭さち子 1955年(昭30)7月~1956年(昭31)7月 雑誌「新婦人」連載。 作者の大庭さち子 (1904~1997) は戦中から戦後にかけて少女向けの小説を中心とした創作活動を続けた。戦後は婦人雑誌等に、旧来の道徳観念に縛られてきた女性の生き方を問…

『二番線発車』 高見順

二番線発車:高見順 1955年(昭30)1月~12月、雑誌「婦人生活」連載。 1956年(昭31)東方社刊。 お嬢様育ちのヒロイン恵子が、初めて社会に出て働こうとして父親の紹介した会社に就職する。職場の先輩として積極的に声をかけてくれた男に好感を持つが既婚…

『黒壁』 水上勉

黒壁:水上勉 1961年(昭36)1月~11月、雑誌「新週刊」連載。 1961年(昭36)12月、角川書店刊。 1963年(昭38)角川小説新書。 黒壁:水上勉2 (こくへき)山伏信仰で知られる熊野川流域での殺人事件。電力開発工事の監督官庁の敏腕課長が現地への出張中に…

『女の一生』 田村泰次郎

女の一生:田村泰次郎 1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。講談社ロマンブックス、上下2巻。 1953年(昭28)9月~1956年(昭31)5月 雑誌「婦人生活」連載。 『女の一生』というタイトルには、「この人生って何だったんでしょうね?」と自問するヒロイン…

『ダルタニャン色ざんげ』  クルティル・ド・サンドラス 小西茂也・訳

ダルタニャン色ざんげ:小西茂也 1950年(昭25)河出書房刊。 1955年(昭30)河出書房、河出新書32 作者のガティアン・ド・クルティル・ド・サンドラス(Gatien de Courtilz de Sandras, 1644~1712)は、ブルボン王朝時代のフランスの軍人であり、文筆家で…

『広島悲歌』 細田民樹

広島悲歌:細田民樹 1949年(昭24)世界社刊。 1949年(昭24)10月、雑誌「富士」掲載:『美しき大地』(中間部) 1949年(昭24)11月、雑誌「富士」掲載:『山河の歌声』(終末部) 被爆直後の広島とそこに暮らす人々の惨状に直接触れながら、その核兵器使…

『清き泉を掘らん』 芹澤光治良

清き泉を掘らん:芹澤光治良 1951年(昭26)4月~1952年(昭27)4月、雑誌「婦人生活」連載。 1954年(昭29)北辰堂刊。 抽象画を学ぶ画家の卵の青年とその友人の哲学科の学生、その妹のフランス語教師、そして音大生を目指す娘という男女二組を中心にした恋…