1934年(昭9)非凡閣、新進大衆小説全集第20巻 平山蘆江集 所収。
平山蘆江(ろこう)(1882~1953)についてはあまり語られることがない。記者作家として新聞社を転々として、演芸・花柳界の著作が多いが、歴史物、あるいは怪談物も知られている。この作品はたまたま手にした今となっては珍しい長篇伝奇小説だった。
タイトルの「血風呂」とは女体の美を保持するため、若い男の生き血を風呂に入れて浴びるという京都の公卿家に伝わる秘法という。旗本の次男坊の主人公源三郎は美男剣士と評判で、江戸では公家のご落胤、医師の娘、水茶屋の娘の三人から思い慕われていた。彼女たちは浮世絵の美人画に彫られるほどの美貌ながら、江戸から出奔しても源三郎への一途な思いを抱き続ける。その女の一念の激しさが物語の骨格かもしれない。和歌や端唄、音曲を交わす場面も多い。一見するとエロ・グロとも思える場面だが、時代物の妖艶さに包まれると一風変わった様相に見えてくる。☆☆
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挿絵は木俣茂彌。
「あしたに紅顔あって夕べに白骨となる。無常迅速の現世に、あくせくして居ませうより、御佛の懐に、安々と抱かれたら、此上の仕合せはございません。死にたい時に死ねるのを大往生と申し、死にたくなうて死ぬるのを煩悩餓鬼と申し、死にたくても死ねないのは現世の大苦艱と申します」(土手八丁)