1951年(昭26)湊書房刊。
1959年(昭34)川津書店刊。表題を「天竺浪人金忠輔」と変えている。
江戸中期、文化文政年間に実在したとされる仙台藩の浪人、金忠輔(こん・ちゅうすけ)の破天荒な事績を小説化したもの。金(こん)は仙台以北に散見する苗字で、現在では金野(こんの)という変形も多い。他に「今」「今野」もある。すでに江戸期から史伝のほか講談等でも語り継がれていた。野村胡堂も岩手県出身なので、この人物に興味を抱いた可能性がある。
藩士の武術を教える道場主によって殺された親の仇を討とうとしていた小娘を助けて、忠輔は仇討ちを成就させるが、身辺を追われる立場となり、浪人して北海道の蝦夷地に向かう。道中での奇矯と思える言動も裏を明かせば抜け目のない考察から来ていて、どこかピカレスク的な味わいも感じる。松前藩に対する転封の動きを阻止するために密使を買って出て江戸に向かい、機略と弁舌をもって目的を達成する。暗躍する公儀隠密との知恵比べにも痛快さを覚えた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1642559
『だが弓馬槍剣の術を磨くばかりが武士のたしなみではないぞ、一たん禄に離れても、食ふに困らぬだけの用意はして置け、君子は器ならずといふ、何処へ転がしても物の役に立つのが君子の道だ』(俄か易者)
金忠輔の豪放さには、さう言った偽悪者らしく、誤解される節を多分に持ってゐたのでした。(愛妾の贅沢病)
*参考画像:Gallery Soumei-do ギャラリーそうめい堂
鏑木清方/金忠輔
https://www.soumei.biz/product-page/C24201