明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『天保怪鼠伝』 松林伯円

f:id:maigretparis:20220216090902j:plain

(てんぽう・かいそでん)1997年(明30)大川屋書店刊。上下2巻。江戸時代の有名な義賊・鼠小僧治郎吉の一代記を名講談師・松林伯圓(しょうりん・はくえん)が口演したのを速記した本になる。この他にも白浪物という怪盗たちを演題に上げたのが当時の聴衆に大好評で、俗に「泥棒伯圓」という仇名がついた。鼠小僧の少年期を含むいくつかのエピソードをまとめた長編になるが、丁寧な語りながらもあまり脱線せず、話をうまく落としどころにもっていく手腕は流石だった。特に借金や賭博の負けに加えて、身代金から義援金まで重なって、一度に大金が必要に迫られての絶体絶命の局面から、一挙にそれを片づける鮮やかさには、フランスのルパン物に共通する心意気と醍醐味があった。☆☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は松本洗耳。

dl.ndl.go.jp

 

※「決して今日(こんにち)他人(ひと)様のものを無暗(むやみ)に取らふとは思ひません。何(ど)うかして困る人には物を施してやり、非道にして不儀の富貴とやらに暮らして居(い)る其人(そのひと)の貴宝(たから)を取って不仕合(ふしあはせ)な者に施してやり、僅かの金ゆへ死なう杯(など)とする者を助けてやりたいと私(わたくし)の志(こころざし)でございます。」(第五席)

 

※「はしがき」から

《此の「天保怪鼠伝」は世に泥棒伯圓と称ばるる松林伯圓氏の講演せられしものにて、子を泥棒伯圓と称びなすは、けだし子が義賊の伝を講するに妙を得たるが故なるべし。さればよしや泥棒伯圓のあだし名を取るとも、心に盗意なく身に盗業なくば、などか天地に恥づる所はある。》

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ