明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『奇々怪々』 三宅青軒

 

1901年(明34)矢島誠進堂刊。三宅青軒の得意な一人称「われは」で語る格調高い「である」文体。先に読んだ『不思議』もそうだったが、奇をてらうタイトルをつける傾向がある。今回もふと主人公が見染めた美人女性が見かけによらず男勝りの身体能力を有している。その父親は「博愛団」という貧者病者のための施設を運営する代議士だが、高利貸の華族と対立し、告訴され収監されるうちに獄中で自殺する。その復讐をする手段が奇想天外なのが読者の興味をそそるが、一人称の主人公は目撃者の立場であり、真相は最後まで明かされない。奇怪な事象を連続させると説明の付けようがなくなるのか、早々の幕引きとなる。☆☆☆

(追記)社会的な罪悪を懲罰するのに刑法があるのだが、法律によってのみでは懲罰を果たせないほどの悪行を被害関係者たちが復讐という手段で思いを果たしたい、という論理が語られる個所がある。これなども明治の観念小説的思考が盛り込まれたようにも思われる。

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は水野年方。

dl.ndl.go.jp

 

《小説中ことさらに奇怪の趣向を立て、又「奇々怪々」など、白痴嚇かしのやうな名をつけたは、誠に恥かしい。併しこれは新聞の読者を引つける方便として是非無いことである。》(序文)



《心機といふものは実に不思議なものである。何事か一寸した変動が起こると、それが思ひも寄らぬ結果を成すもので、とても予定だの予想だのは出来ない、イヤもうわれながら其の意外なるに驚く。》(62回)



*過去記事:『不思議』 三宅青軒

ensourdine.hatenablog.jp

 

 

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