明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『不思議』 三宅青軒

 

1903年(明36)文泉堂刊。珍しい「われは」という一人称で京都在住の青年作家がミステリー仕立ての物語を語る。言文一致体の「だ」「である」を使っているが、語尾だけを漢文調から置き換えた感じで文体としてはどこか堅苦しさがある。東京にいる親友の法学士を久々に訪ねると傷害事件で収監されたという。さらに彼が獄中で自殺し、その遺骸は謎の人物が引き取って行方知らずとなった。しかたなく主人公は帰宅するが、その夜行列車の中で同室にいた旅客が殺害される。主人公にとって予想外の事件が畳みかけるように次々に起こり、不思議の念に囚われ続ける。作者三宅青軒の作品には当時のキリスト教会の礼拝や集会の記述が結構出てくるが、抹香臭さはない。語り口の巧みさで読む者を楽しませてくれる作家の一人だと思う。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は未確認。

dl.ndl.go.jp

 

 

 

 

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