1914年(大3)隆文館刊。口絵を切り取った後らしく、本の表紙から口絵と本文の最初の2頁までが欠落していた。当時は口絵だけ集めるためにこうした切り離しは少なくなかったようだ。別途「木版口絵総覧」から鏑木清方のものと判明。この一枚の絵を見ただけで読んでみようという気になった。乳母のもとで育った乳兄弟の話。以前に読んだ菊池幽芳の「乳姉妹」と同じパターンで、一方が旧家の家督相続者、もう一方が水呑百姓の息子だが、大人たちの軽率な思惑だけで立場を入れ替えてしまい、悲劇となる。作者の特徴なのか、会話が多過ぎる感じで話が進まないもどかしさを感じる。しかし読み進むと最後に向かって緊迫した展開に引きずり込む勢いが出る。地位や肩書次第で、傲慢さから卑屈さへあるいはその逆へと手のひらを返すように生き方がガラリと変わってしまう人間の愚かしさは、実社会でも自分自身でも克服できないものだと痛感する。☆☆