明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『千軒長者』 水谷不倒

 

1908年(明41)如山堂刊。作者の水谷不倒は本来国文学者として有名で、浄瑠璃研究や江戸文学についての著作集を出している。40代までは大阪朝日新聞社の記者として新聞連載小説を書いていた。「千軒長者」も人形浄瑠璃の外題になっている「山荘大夫」(山椒大夫)に通じるものがある。柔術師範の弟子だった主人公は師匠の遺言によりその娘と許婚の約束をするが、道場をたたんで岡山に引っ越しするときに、騙されて娘と母親は海賊船に拉致されてしまう。その捜索のために彼は刑事となり、大阪の一角に広壮な屋敷を構える謎の富豪の屋敷に下男として潜入する。実話に基づいた物語と思わせるのは、その捜索の経過の回りくどさや、長者屋敷の使用人たちの悪玉らしくない人の良さなど、出来が今一つの小説を読まされる感じのせいかもしれない。いっそ実録風でなく、探偵活劇風に細部を膨らませればもっと面白い仕上がりになったかもしれない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は鏑木清方

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