明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『紫被布のお連:探偵実話』 橋本埋木庵

紫被布のお連:橋本埋木庵

1903年(明36)金槇堂刊。前後2巻。

 

タイトルの「被布」(ひふ)とは現代人には馴染みが薄いが、和装用語、高貴な婦人の和服の上にはおる上衣のようなもの。(画像参照)

被布 huaban.com

これも探偵実話の一つで、明治中期、東京横浜を中心に強盗と殺人を平気で冒し続けた毒婦お連の浮沈の人生。何よりもなかなかの美人であり、探索方の追求を巧みにかわしながら逃亡し、その先々で美貌と巧言を武器に身を隠す術は見事というしかない。つまり男どもはどうしても美人に敵わないということに尽きる。連載115回の長丁場になる埋木庵の豊潤な筆力は平面的ながらも読ませる。ややネタバレになるが、お連の壮絶な最期は圧巻だった。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/888403

挿絵作者は不詳。

紫被布のお連:橋本埋木庵2

《併(しか)し文子は是れ迄役者などを買(かつ)て遊んだ事は一度もないから、唯内所(ないしょ)で思ひ焦れ居たるが、されば姉芸者の小文に誨(たしな)められしにも抱はらず芝嘉久(しかく)の写真を一枚買て懐中し、折々には人なき蔭でこれを眺めて我知らず鼠(ねずみ)鳴きをして居るのである。》(第十二回)

 

*落語の中の言葉221「鼠鳴き」

https://9rakugo-fan.seesaa.net/article/202011article_1.html

 

紫被布のお連:橋本埋木庵3

《座(そぞろ)に既往(これまで)の事を思ひ出して遉(さす)がの妖婦おれんも無数の感に打(うた)れて悄然(ぼんやり)と慾も得も忘れて仕舞って「アヽ、今から人間を廃(やめ)たくなって仕舞た」と思はず歎息の声を漏した。》(第五十四回)

 

 

*関連記事:

『憐なる母と娘』 橋本埋木庵

ensourdine.hatenablog.jp

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ