明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『憐なる母と娘』 橋本埋木庵

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1916年(大5)樋口隆文館刊。前後2巻。版元の広告文によると、日清戦争で戦死した軍人の遺された妻子の悲劇的実話に基づいているという。その美貌が仇となって、横恋慕された妻は義弟夫婦の姦策により金満家の男に凌辱される。明治の頃の小説には性愛に関する記述は省略されることが多いが、この事件に関しては言及するだけでも強い印象を与える。屈辱を受けた彼女は自刃する。後に残された娘は身売りされながらも、母の復讐を誓う。元上官として乃木大将一家の話が脇筋として入っているが、偉人扱い過ぎる当時の風潮を反映して描写はかえって平板になっている。作者埋木庵(うもれぎあん)が得意とする悪巧みの人物描写は、以前にも読んだ『大悪僧』でもそうだったが、恐ろしく生き生きとしている。これだけ虐げられる善人たちにとって最後の「懲悪」はどうしても必要だと思う。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は小野信雄。文字通りの美人画で、この口絵のせいで読もうという気になる人は少なくないと思う。

dl.ndl.go.jp

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