明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

大正期

『封人窟』 渡辺 黙禅

封人窟:渡辺黙禅1 1915年(大4)樋口隆文館刊、前後終編全3巻。 明治大正期の長篇小説の大家の一人、渡辺黙禅の一作。新聞小説を各紙に何本か掛け持ちで連載していたらしく、同じ年に単行本として何点もの長篇(2分冊、3分冊)を出していた。作風は多数の…

『恋の魔術』 江見水蔭

恋の魔術:江見水蔭1 1919年(大8)樋口隆文館刊、前後終全3篇。 大正期のロマン伝奇小説。江見水蔭の軽妙な筆運びがグイグイ読ませてくれる。甲州韮崎から山奥に入ったラジウム鉱泉の星飛村が冒頭の舞台。山歩きで遭難しかけた青年が這う這うの体で一軒の…

『木乃伊の口紅』 田村俊子

木乃伊の口紅:田村俊子 1914年(大3)牧民社刊。 「木乃伊(ミイラ)の口紅」という題名が妙に気にかかっていたので読もうと思った。田村俊子は幸田露伴に弟子入りした純文学作家である。季節や事物への感受性が繊細かつ鋭敏で、文章に重みを感じた。共に文…

『頭の悪い男』 山下利三郎

日本探偵小説全集:改造社版、第15篇(山下・川田集) 1930年(昭5)改造社、日本探偵小説全集 第15篇(山下利三郎・川田功集)14篇所収 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 4篇所収 山下利三郎(1892~1952)は大正後期の雑誌「新青…

『浮れてゐる「隼」』 久山秀子

隼の勝利:久山秀子 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 6篇所収。 1929年(昭4)改造社、日本探偵小説全集 第16篇(浜尾・久山集)15篇所収。 久山秀子は「隼のお秀」と呼ばれる女掏摸(スリ)であり、何人もの手下を抱えている。身…

『影人形~釘抜藤吉捕物覚書』 林不忘

影人形~釘抜藤吉捕物覚書:林不忘 1955年(昭30)同光社刊、11篇所収。 1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集第25巻新進作家集に5篇所収(うち4篇は重複) 最初は大正14年3月から雑誌「探偵文芸」で連載が開始された。岡本綺堂の「半七」ばりの江戸情…

『新聞小説史(大正篇)』 高木健夫

新聞小説史(大正篇):高木健夫 1974年(昭49)1月~1976年(昭51)10月、雑誌「新聞研究」第270号~第303号連載(うち288号、289号は休載)全32回 日刊新聞に連載された小説の種類と数とがおびただしいものだったことを本書によって改めて知らされた。その…

『二人毒婦』 江見水蔭

二人毒婦:江見水蔭 1926年(大15)樋口隆文館刊。前後全2巻。 江見水蔭の小説には、交通が不便だった明治・大正期の観光地、保養地、遊興地の様子を生き生きと描いている個所が多い。この作品では年始を避寒の地で迎える大洗海岸やそこの旅館の様子など。…

『平和の巴里』 島崎藤村

平和の巴里:島崎藤村 1915年(大4)左久良書房刊。 島崎藤村は41歳の年、1913年4月に神戸から出国して1916年7月に帰国するまでフランスに滞在した。その背景には家庭環境のいざこざがあったという。ちょうど第一次世界大戦が勃発する直前で、パリからの書簡…

『九番館』 長田幹彦

九番館:長田幹彦 1921年(大10)博文館刊。 長田幹彦(1887~1964)は「祇園物」と称される花街の風俗を描く耽美的な作風と言われていたが、この作品は一風変わった探偵小説というふれ込みだったので手に取った。ある港湾都市の一角にある「九番館」という…

『?(ぎもん)の女:秘密小説』 玉川真砂子

1919年(大8年)共成会出版部刊。大正期の女性ミステリー作家と思われるが、この作品1冊のみで、生没年も不明。タイトルに疑問符?を使っている点も気になって読んでみた。ある殺人事件をきっかけに重要人物が身を隠すという設定はミステリー小説の手法のパ…

『つきぬ涙』 篠原嶺葉

1917年(大6)春江堂刊。前後2巻。 真情と義理との板挟みで人生を絶望するまでに追い込まれる女性の悲劇小説。相思相愛の仲の男女が親同士の仲違いゆえに結ばれず、男はドイツ留学へと旅立つ。その直後、女は実家の破産の危機に直面し、泣く泣く金銭ずくの…

『第二の接吻』 菊池寛

1925年(大14)改造社刊。当時、内務省の検閲により発禁図書とされた。このデジタルコレクションではかつて発禁本として保管されていたものを公開している。数カ所で風俗紊乱的表現と指摘された個所には朱筆の跡が残っている。下記にも一部引用したが、当時…