明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『二人毒婦』 江見水蔭

二人毒婦:江見水蔭

1926年(大15)樋口隆文館刊。前後全2巻。

 

江見水蔭の小説には、交通が不便だった明治・大正期の観光地、保養地、遊興地の様子を生き生きと描いている個所が多い。この作品では年始を避寒の地で迎える大洗海岸やそこの旅館の様子など。昔は隣室との境が襖一つで仕切られていた。

「毒婦物」とは言うものの、悪事を糧に男どもを翻弄する犯罪小説ではない。伯爵家の夫人となったヒロイン伊勢子が過去のやましい少女時代の不品行を暴露されないようにと腐心する苦悩と、もう一人のヒロイン澄江の奔放な生きざまを対比させている。民間探偵の木曽が伊勢子を救おうと買って出たり、澄江から積極的に言い寄られたりと、コメディタッチの展開になる。女が熱心に追いかければ男は逃げたくなる。普通はその逆なのが多いのだが・・・女同士の親密な友情が同性愛的な感情に変化しそうな場面も、当時としては発禁にならずに済んだのが興味深い。☆☆

 

二人毒婦:江見水蔭2

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/919305

口絵は川瀬巴水

 

二人毒婦:江見水蔭3

《濃厚な情味の分泌。妖艶な愛波の伝達。今夜といふ今夜は男の魂を抜き取って、揉みくちにして、引裂いて、丸めて、口の中へ投込まずにゐられない様な態度を示すのであった。》(前編・四四)

 

《澄江のやうな堕落し切った毒婦でも、眠ってゐる時は普通の人間なのであるから。死は総(すべ)ての罪悪を消滅させるといふ位だから、その死に近い眠りの間だけは、寛容してやっても好いのである。そんな考へが欣之助の醉中の頭脳に浮んだのであった。(後編・三五)

 

二人毒婦:江見水蔭p

 

 

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