1923年(大12)博文館刊。
江見水蔭(1869~1934) は硯友社の門人で、明治期での多作家の一人とされている。「はしがき」にもある通り、日本で最初に「探偵小説」(犯人探しの)を書いたようだ。この本には「芸妓殺し」の中篇をはじめ、他に4篇の短篇を集めている。明治文学における「探偵小説」は江戸時代の講談話の流れを汲んだ悪漢物、毒婦物などの実話を発展させた実録小説が大勢を占めた。しかしホームズ物など外国の影響を受けた後の小説はこの「芸妓殺し」でも見られるように、何人かの容疑者とともに、謎解きに鋭い推理の冴えを見せる探偵役を登場させている。江見水蔭は古墳や遺跡の調査や発掘の趣味があり、東京郊外の林野を歩き回っていた。明治期にはまだ多くの漂泊民の集団も生活しており、やや差別的な意味を込めて作品にもしばしば描かれている。時代の価値観ではあったと思うが、読んで好ましいものではなかった。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/916506