1956年(昭31)鱒書房刊。
「むっつり右門」の捕物帖は全部で38話にのぼる。この鱒書房版では全5巻に分かれ、第1巻は第一番手柄「南蛮幽霊」から第七番手柄「村正騒動」までを収める。すべての話が「第〇番手柄」と整理され、寛永15年の初手柄以降、時系列的に事件が語られていく。語り口は丁寧だが、文脈が金魚の糞のように長めになる傾向が気になる。余計な口をきかない南町奉行同心の近藤右門とおしゃべりの岡っ引伝六との掛け合いも面白い。事件の捜査は、現場検証では大雑把ながら直感的に核心を突くという飛躍ぶりで、ひらめき重視型とも言える。作者の筆は江戸情緒たっぷりに季節感も織り込んでいる。やや温情的な措置が多いのも作者の特徴か。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1645306
挿画は清水三重三。
《だのになぜ彼が近藤右門と言う立派な姓名があり乍ら、あまり人聞きのよろしくないむっつり右門なぞというそんな渾名をつけられたかと言うに、実に彼が世にも稀しい黙り屋であったからでした。全く珍しい程の黙り屋で、去年の八月に同心となってこの方いまだに只の一口も口を利かないと言うのですから、寧ろ唖の右門とでも言った方が至当な位でした。》(第一番:南蛮幽霊)
「どうつかまつりまして、うなぎときちゃおふくろの腹にいたうちから、目がねえんですがね。でもこの土用うちじゃ、目のくり玉の飛び出るほどぼられますぜ」(第七番:村正騒動)